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幸福論 第四章(十八)テストを終えて | 汐なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
幸福論
第四章(十八)テストを終えて
作者:
汐なぎ
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第四章(十八)テストを終えて
幸
(
みゆき
)
は、中間テストの心配をしていたが、無事終える事が出来た。 それでも、答案が返される
迄
(
まで
)
は不安で仕方なかったが、返って来たテストは全教科満点で、幸はほっと胸を
撫
(
な
)
で下ろす。 しかし、
出流
(
いずる
)
はと言うと、幸の隣で頭を抱えて唸っていた。 「どうしたの?」 幸が尋ねられ、出流は顔が上げたが、その表情は
悲壮感漂
(
ひそうかんただよ
)
うものだった。 「テストの結果が……」 出流が珍しく歯切れの悪い言い方をする。 幸は、心配そうに出流を見るが、
彩花
(
あやか
)
は違った。 彩花は、振り向いて出流を見ると、冷たく言い放つ。 「どうせ、テストの結果が悪かったんでしょ」
図星
(
ずぼし
)
を突かれて、出流は大きな声で言い返す。 「うっせえよ! お前に何が分かるんだよ!」 「だって、いつもの事じゃない」 「黙れブス!」 出流はそう言うと、机を叩いて勢いよく立ち上がった。 「
喧嘩
(
けんか
)
はやめようよ」 幸も少しは二人の間に入って、
仲裁
(
ちゅうさい
)
しようと口を
挟
(
はさ
)
む。 「喧嘩じゃねえよ。
鈴木
(
すずき
)
が俺の事バカにするからいけないんだ!」 「だって、ホントの事じゃない」 「彩花ちゃん。やめようよ」 そう言われて、彩花が驚いたように幸を見る。 「幸君が止めるのって珍しいね」 「あ、ごめんなさい」 幸は、自分が悪い事をしたのかと
咄嗟
(
とっさ
)
に謝るが、彩花は慌てて訂正する。 「違う違う。なんか、慣れて来てくれたんだなって嬉しかったの」 「だよな」 彩花と出流は感心したように幸を見る。 二人は、幸が止めに入った事で、気持ちを落ち着かせる事が出来た。 そこで、出流が落ち着いた調子で、彩花に話しかけた。 「それより、鈴木。さっきの訂正しろよな」 「ごめん。でも、それなら
西尾
(
にしお
)
君も訂正してよ」 「ごめん」 お互い謝ったが、彩花の言い方が悪かっただけで、出流の成績が悪いのは本当の事だ。 そして、今回の出流のテストの結果もやはり
悲惨
(
ひさん
)
だった。 数学、三点。 国語、十五点。 等々。 出流は
椅子
(
いす
)
に座ると、頭を抱えて髪の毛をかきむしる。 勉強が苦手な出流にとって、テストは
憂鬱
(
ゆううつ
)
でしかなかない。 出流も勉強をしようと言う気が訳ではないのだが、いかんせん頭がついて行かないのだ。 「じゃあ、私は向こうに行くね」 彩花はそう言うと、頭を抱えて唸っている出流を残して、女子のグループの方に行ってしまった。 出流はそれを見届けると、声をひそめて幸に問いかける。 「なあ。幸って、卒業したらどうするんだ?」 それに、幸は
即答
(
そくとう
)
した。 「
鍵師
(
かぎし
)
になる」 幸は将来は鍵師になるとずっと思っていた。
優一
(
ゆういち
)
の店で働いていた時も、密売組織で金庫の鍵を開けていた時も、幸は楽しくて仕方がなかった。 鍵を開けるのが鍵師の仕事なら、幸にとってこれ程適したものはない。 しかし、出流は鍵師が何か分からず問い返す。 「かぎし?」 「あ、うん」 幸は聞かれて
頷
(
うなず
)
くが、出流は顔を
顰
(
しか
)
めて幸を見る。 「かぎし? って、どんな仕事なんだ?」 出流の質問に、幸はしばらく考えてから口を開いた。 「ええと……。鍵を開ける人?」 幸の言葉に、出流は大きな音で手を叩いた。 「ああ、鍵か。そんな仕事があるんだな」 「あ、うん」 「それって、どうやったらなれるんだ?」 幸は急に聞かれて
戸惑
(
とまど
)
う。 ずっと「鍵師」になるのだと思ってはいたが、どうやったらなれるのかなど考えた事もなかった。 「分からない……」 「そうなのか。でも、それってやっぱり、高校行かないといけないのか?」 「高校?」 幸は、高校が何か分からず聞き返す。 今まで、特異な生活をしていた幸は、当然知っている筈の事も知らなかったりするのだが、出流にそんな事が分かる訳がない。 出流は、幸の反応が薄いのを見て、いつものようにうまく話せなくて困っているのだろうと、色々考えてから質問をする。 「それとも、そう言う専門の学校があったりするのか?」 「分からない」 幸は、出流の言葉に首を横に振る。 何もしなくても、自然になれるものだと思っていたので、今まで考えた事もなかったのだ。 そこで、ふと出流がどうなりたいのか気になり、今度は幸が問いかけた。 「出流君は?」 「俺は、機械とか、そう言うのに興味があるから、工業高校に行きたいんだ」 出流は即答すると、真剣な顔で幸を見た。 「凄いね」 幸は、よく分からないながらも、出流が将来の事を考えている事に感心した。 「そうか? 凄いか?」 出流は自慢そうに鼻を掻くが、すぐに情けない顔になって下を向く。 「ただ、勉強できないからさ。
斉藤
(
さいとう
)
に
推薦貰
(
すいせんもら
)
っても、入れるかどうかってところなんだよな」 「そうなんだ……」 幸はよく分からず、心配しながらも、
曖昧
(
あいまい
)
な言葉を返す事しか出来ない。 「このままじゃヤバイよな」 出流はそう言って、深いため息をつく。 それから、ふと思い出して幸の顔を見て問いかける。 「そういえば、幸ってテストどうだったんだ?」 聞かれて、幸は申し訳なさそうに答案を見せた。 全教科満点の答案を見て、出流は驚いたように目を見開く。 「幸、頭いいんだな」 感心したように言ってから、出流は思いついたように手を叩いた。 「なあ。もし良かったら、今度、勉強教えてくれよ」 「えっ。いいけど」 「ありがとう! 助かる!」 出流は幸の手を
掴
(
つか
)
むと、満面の笑みで上下に振る。 幸は、嬉しそうにする出流を見ながら、これで、この前の事件の恩返しが出来ると笑みを浮かべた。
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汐なぎ
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