fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
幸福論 第四章(十九)幸の悩み事 | 汐なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
幸福論
第四章(十九)幸の悩み事
作者:
汐なぎ
ビューワー設定
101 / 103
第四章(十九)幸の悩み事
幸
(
みゆき
)
は、
大河
(
おおかわ
)
に聞きたい事があるのだが、どう切り出したらいいか分からず、帰りの車内、助手席で揺られながら、
真剣
(
しんけん
)
な顔で悩んでいた。 「テストお疲れ様」 大河は声をかけたものの、悩んでいる風な幸を見て、テストの結果が悪かったのかと、今はそれ以上触れられない事にした。 そこで、大河は、家に帰ってから軽い調子で聞いた方がいいのかと、学校とは関係のない話題を振る。 幸もそれに答えてはいるが、悩んでいるのは「
鍵師
(
かぎし
)
」の事と「
出流
(
いずる
)
に勉強を教える」と言う事だ。 むしろ、幸にとってはテストの事を聞いてくれた方が話しやすいのだが、話題が
逸
(
そ
)
れていて切り出すタイミングが見つからない。 そうこうしている内に、車はマンションに着いてしまった。 「もう食事の
支度
(
したく
)
はしてあるから、ゆっくりしていいよ」 大河はそう言うと、幸がソファに座るのを確認してから、キッチンに向かった。 残された幸は、落ち着かない様子で大河を待つ。 幸の一番の心配は「鍵師」にどうやったらなれるかと言う事もあるが、
当面
(
とうめん
)
の悩みは「出流に勉強を教える」と言う事だ。 今、幸は
三枝
(
さえぐさ
)
のマンションに住んでいる。 そして、学校の
送迎
(
そうげい
)
は大河がしている。 この状況では、ここに呼ぶというのも、出流の家に行くと言うのも言いにくかった。 幸が真剣な顔で考え込んでいるところへ、大河が飲み物を持って帰って来た。 もう、気温は高くなっているが、幸の飲み物は温かい緑茶だ。 「お待たせ。お茶いれて来たよ」 大河はそう言うと、飲み物を置いて幸の
隣
(
となり
)
に座る。 「テスト、帰って来たんだっけ?」 大河は、言いにくそうにしながらも、ジュースを飲みつつ幸に問いかけた。 その言葉に、幸はやっと言い出せると瞳を輝かせ、カバンから
答案
(
とうあん
)
を取り出す。 「あ、これです」 「どれ?」 大河は、幸がテーブルに答案を広げるのを見て声を出した。 「満点!?」 「あ、はい」 「幸、頭いいんだね」 そう言って、大河は幸の頭を
撫
(
な
)
でた。 「ありがとうございます」 幸は礼を言って、照れたように
俯
(
うつむ
)
く。 そして、大河が撫でるのをやめると、髪を整えながら顔を上げた。 「えっと、聞きたい事があるんですが……」 「ん? 何?」 大河に聞かれて、幸は少し考えてから口を開く。 「高校に……」 「高校?
何処
(
どこ
)
か行きたいとこあるの?」 幸は、大河が
勘違
(
かんちが
)
いしているのを見て、自分の言い方が悪かったのかと気付くが、どう話せばいいのか分からない。 「えっと、そうじゃなくて……」 「ん?」 「えっと、出流君なんです」 「出流君?」 「あ、はい」 大河は、幸の言葉をゆっくり考えて言葉を続ける。 「ええと、出流君が高校に行くの?」 「はい!」 幸は、伝わった事が
嬉
(
うれ
)
しくて身を乗り出す。 「それで、出流君が勉強を教えて欲しいって言うんですが、えっと……」 「ああ、一緒に勉強したいんだね」 「はい!」 そう言って、幸は大きく
頷
(
うなず
)
いた。 そこで、大河も、幸が帰りの車の中で悩んでいた訳を
悟
(
さと
)
った。 「ここに連れて来るか、出流君の家に行っていいかって事だよね?」 「はい!」 笑顔で答える幸に、大河も笑顔で二、三度首を
縦
(
たて
)
に振る。 「じゃあ、三枝に聞いてみようか」 「あ……」 しかし、ここへ来て、幸は三枝が許してくれないのではないかと言う考えが頭に浮かび、表情が少し曇る。 「ん? ああ。三枝? OKすると思うよ」 大河が察して告げると、幸は表情を明るくして頷いた。 「そっか。出流君は高校行きたいんだね」 そう言ってから、大河は幸を見る。 「幸も高校行くよね?」 それに、幸は首を横に振る。 「分からなくて」 「ん? 行きたいって言えば、三枝は許してくれると思うよ?」 幸は「鍵師」になるには、どうしたらいいか分からず悩んでいる。 高校に行かなければならないなら行きたいが、幸にはどうしたらなれるのかも分からない。 「えっと……」 「ん? 何かなりたいものがあるの?」 大河に聞かれて、幸は大きく首を縦に振る。 「鍵師になりたいんです」 「鍵師? って鍵の職人か何か?」 「そうです。鍵を開ける人、です」 「へえ。もう将来の事が決まってるって
凄
(
すご
)
いなあ」 大河は、自分の中学時代を思い出して、感心したように幸を見る。 しかし、幸は漠然と「鍵師」になると思ってはいるが、出流のようにフリースクールを出てからどうするかなど考えてもいなかった。 幸は、色々と考えてから、首を横に振る。 「何も知らないんです」 「ん?」 「どうやったら、なれるか」 心配顔の幸に、大河は笑いかける。 「じゃあ、一緒に調べようか」 そう言うと、大河は自分の
携帯端末
(
けいたいたんまつ
)
を二人の真ん中に置いた。 そして、資格のページを見つけて、二人で端末を
覗
(
のぞ
)
き込む。 幸には、難しくて読めない漢字が沢山あったので、代わりに大河が読んで聞かせた。 「十六歳以上で、
日本国籍
(
にほんこくせき
)
で、
前科
(
ぜんか
)
がなくてか。年齢制限があるんだね」 幸は、大河が読み上げるのを聞いて、分からない単語があったので聞いてみる事にした。 「えっと、『こくせき』と……『ぜんか』って何ですか?」 「ああ、難しかったか。日本国籍は、日本人って事だから、幸は大丈夫だね。後、前科っていうのは、悪い事をして捕まったりしてないかって事だから、こっちも問題ないよ」 その答えに、幸は表情を暗くする。 幸は、
密売組織
(
みつばいそしき
)
にいた時にはよく分からなかったが、今では、自分のしていた事が悪い事だったのではないかと、なんとなく気付いている。 誰かに確かめた訳ではないが、それが悪い事なのだとしたら、幸には「鍵師」になる資格がないのだ。 「後は年齢だね……。あ、資格を取るんじゃないなら、年齢関係ないのかな? ねえ、幸?」 幸は、大河に聞いてみた方がいいのかとも思うが、自分に前科があるかもしれないなど言える
筈
(
はず
)
もない。 「えっと……」 「何かあった? 疲れた?」 大河に聞かれて、幸は力ない調子で首を横に振る。 「ん?」 心配そうに、大河は幸の顔を覗き込む。 「なんでも、ないです」 幸は、俯いたまま顔を上げようとしない。 「部屋で休む?」 大河に聞かれて、幸は一人で考えた方がいいのかもしれないとも思ったが、一人になると嫌な事しか考えられない気がして、返事が出来ずにいた。 幸はしばらく考えてから、出流の事を思い出し、顔を上げて大河を見る。 「えっと、三枝さんは……」 「ああ。今日は遅くなるかもしれないって言ってたけど、帰っては来るみたいだから、先に食べて待っとこうか」 そう言って、大河はソファから立ち上がる。 幸は、返事をすると、それに続いて立ち上がった。
前へ
101 / 103
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
汐なぎ
ログイン
しおり一覧