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助手ロボットと楽しい研究
「よしっ。そうと決まれば早速対象を検査台に運んでくれ」
セルゲイはパンと手を叩き、先ほど電源を入れた装置に向かって声を掛けた。ピピと了承の意を示す機械音を発して、それはアランの元へとタイヤを転がして動き出す。
「なっ、なんだよ、このロボット!!」
「あれぇ? 会ったことなかった? 彼はボクの助手だよ」
「助手?!」
「あぁ。人間の助手はどうもミスが多くてね。頭も力も弱くて使い物にならない。だから彼を作ったんだ。稼働範囲がケーブルの届くこの部屋内であることを除けば、彼が人間に劣る点はない」
「なっ……ヒィッ!」
人の背丈ほどある箱型の装置の側面が開き、二本のアームが伸びてきてアランの肩の下あたりをがっちりと掴んだ。僅かな抵抗も虚しく、剣士はぶら下げられたまま部屋の中央にある検査台へと連れていかれると、マントや防具を外される。
「手足は拘束させてもらうよ。君みたいに考えもせずに動く人間は突然何をするかわからないからねぇ」
浮かれた表情を隠すこともせず、セルゲイは「こうしておけば脈拍も全て記録できる」などと呟きながら、横向きに寝かせたアランの手首と足首に布製のベルトを巻いたうえで、鎖の付いた金属製の拘束具を繋いだ。
「ところで気になっていたんだが、君はこういった行為に性的な興奮を催すタイプなのかい?」
「……はっ、はぁ?! どういう意味だよ?!」
「勃起しているようだけど」
指摘されて初めて自身の体のことに気が付いたアランは脚を閉じようとするが、痺れ薬のせいで上手く力が入らない。そこへ、再び手袋をはめたセルゲイが腕を伸ばす。
「なっ……んなわけ……!!」
「そういう趣味がないとすると、魔物の体液に催淫効果があるのか? 何のために?」
脱力した体の中で唯一芯を持ち鎌首をもたげるそれを、科学者は指先で摘んで観察した。それから、ぐりぐりと亀頭の先端を手のひらで擦ると、そこについた透明の液体に鼻を近づける。
「やめろっ、さわ……嗅ぐなぁっ!!」
「ふむぅ。やはり魔物の臭いが……。サンプルを取っておこう」
いつの間にかそばに待機していた箱型の装置――助手が差し出す小さなゴム風船のような物を受け取ると、セルゲイはアランのペニスを覆うようにそれを取り付ける。
「なな、何だよっ、これ?!」
「君の精液を採取させてもらう」
「はっ……せっ精液って……!! 何でだよ?! このクソ変態が!! 早く体の中のヤツ取りやがれ!!」
「全く、探求心の欠片も、知性もない君と話をすると頭が痛くなる。こんな機会はそうそうないんだから、色々調べさせてもらうよ。というか、うるさいんだよねぇ。ちょっと黙っててくれないかなぁ」
「なっ……んんんっ?!」
よくできた助手は発言の意図を汲み取り、研究対象の口へ丸めた布を押し込んだ。それとほぼ同時に、セルゲイはアランのアナルに自分の指を二本挿し入れる。
「魔物の体液が潤滑剤代わりになってくれて助かるよ。確かこの辺りに……あぁ、これだね」
「ふっ、う゛、んんぅ!!」
ぐりっとしこりのような器官を押し上げられ、アランは呻き声を上げた。
「ここを同時に刺激すると早く射精できるはず。ヒトに関する知識がこんなところで役に立つとはねぇ」
一切の遠慮もなく、右手の指先で前立腺を転がしながら左手でペニスを扱く。あくまで淡々と作業していたセルゲイだったが、アランの目に涙が浮かんでいるのに気が付くと小さく鼻で笑った。
「ハッ、泣いてるのか……。久しぶりに見たよ。村一番の剣士も、体の中からの刺激にはこうも無力なんだねぇ。日々の鍛錬にこれも取り入れたらどうだろう。君が稽古をつけている子たちに教えてあげようか」
「んんん゛っ!! う、ふぐぅ!! ……っ、テメェ!!」
アランは舌に力を込めて口の中の物を吐き出すと、怒りに任せて勢いよく起き上がろうとした。しかし、手首を鎖に繋がれているため、打ち上げられた魚のように検査台の上で身を捩るだけだった。
「もうすっかり薬が切れたか。拘束しておいて正解だったねぇ」
「おまっ……お前っ、マジで殺すっ!! まっ、あ゛っ」
怒鳴り声が響いたのも束の間、アランの感情とは裏腹に、生理的な快楽を与えられ続けていた下半身はヒクヒクと収縮し始め絶頂を迎えようとする。
「うっ……んんんンッ!!」
よく鍛えられた体は一度強く力み、律動しながらドクドクと精を吐き出した。その瞬間、アランは自身の唇を強く噛み締めて声を堪えた。
「ふっ、うぅっ……クソっ……」
「ヒトは怒っていても射精できるものなのか? やはり魔物の体液にそういう効果が……。こっちのサンプルも取っておかなきゃ」
全身を真っ赤に染めて怒りと羞恥に身悶えする幼馴染を尻目に、セルゲイは彼の尻を伝う魔物の体液をガラス片を使って採取する。その間、助手が機械の腕を伸ばしてペニスを覆うゴムを外し始めた。
「言わなくてもわかると思うけど、零さないでね。あと、空気の入らないように」
「……クソッ!! 触んなっ!! このクソロボットが!!」
ピピ、と音が鳴り、もう一本伸びてきた助手の腕が暴れるアランの腰を押さえつける。たっぷりと精液に満たされたゴムを受け取ったセルゲイは「普段からこんなに量が多いのかい?」と素朴な疑問を口にした。
「知るかよ!! セルゲイ!! お前、覚えとけよ?!」
「あぁ、覚えておくよ。そもそもこの部屋の出来事は全てそこのカメラで記録してある」
「なっ?! このクソ変態野郎……」
セルゲイは採取したヒトと魔物の体液を検査用の棚にしまうと、ずれた眼鏡を二の腕で持ち上げ、冷めた目で検査台を見下ろす。
「忘れっぽいのは君の方だろう、アラン。ついさっきボクに頭を下げたばかりのくせに、全く協力してくれないじゃないか」
「こっ、こんなこと協力できるかよ!! 大体、必要以上にオレのことバカにしやがって!!」
「事実を指摘し提案したまでだよ。さっき泣いていただろう? 最低級の魔物に襲われ、挙げ句尻の穴を弄られ射せ――」
「それ以上言うなぁ!!」
アランは両手両足を繋がれたまま、できる範囲でその体を小さくして縮こまり、苦悶の表情を浮かべた。
「だから……お前には頼りたくなかったんだよ……。あぁ、もう最悪だ。何でオレがこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ。早くコレ取れよな」
「そう慌てなくても。それは逃げたりしない」
呆れた様子で伸びをするセルゲイに対して、アランは「逃げないから問題なんだよクソが」と小さく悪態をついた。
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