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頼られると嬉しい

「セリョージャ、オレ怖いよ……」 「な、何だぁ? アラン、どうしてボクのことを……」  子供の頃のあだ名で呼ぶんだ――二人がまだ、剣術でも学業でもほとんど互角だった頃のあだ名で。  震える指先が自らの手に触れ、セルゲイは思わず体を強張らせた。しかし、アランはそれに気が付く様子もなく、相変わらず焦点の定まらない目で彼を見上げ、ふらふらと宙を彷徨わせた手で白衣の裾を掴む。 「セリョージャ。お願い、ママには言わないで。オレが負けちゃったこと……」 「ん、んん? 子供の頃の記憶? 幻覚? 幼児退行? なぜだ? これも魔物の体液の影響か? それとも強いストレスのせい?」  セルゲイは一歩後退し、眉を顰めてアランの様子を眺めていたが、その濡れそぼった腰が不自然に跳ね上がるのを見ると、途端に焦りを顔に浮かべた。 「あうっ……せ、セリョージャ、助けて。お腹、苦しい……」 「ああもう、原因なんてどうでもいい。早く取り除かなきゃアランの体が……。腹を開くのが手っ取り早いが、意識消失魔法が使える魔術師は――」  ガタッと音がして、白衣を握っていたアランの手が検査台の上に落ちる。セルゲイは、その真っ赤に蒸気した顔と露わになった下半身、剣士としてあるまじき姿を見て引き攣ったように顔を顰めた。 「セリョージャ、ぁ、んんっ……」 「……はぁ、無理だね。他の人間に見せられるわけないだろう、君のこんな……。いや、初めからボクは一人でやるつもりだったんだ」  自分にそう言い聞かせると、セルゲイは眼鏡を持ち上げるようにして瞼を揉んだ。すると、それに答えるようにアランが甘えた声を出す。 「セリョージャ。ごめんね、オレが弱いから……」 「……ふ、謝らなくていい。ボクが全て解決してあげる。だから安心しなよ」  汗ばむ額に張り付いたダークブロンドの髪をそっと撫でると、セルゲイは肩を回して白衣の襟元を引っ張った。そして、助手に向き直り、ロボットアームの先端を別の物に付け替える。 「掴めないなら吸い出してやる」  ロボットハンドに代わり、掃除機の先端ノズルのようなパイプ状の装置を付けたアームがアランのアナルに押し当てられた。 「ひっ、や、やだ、セリョージャ、怖いっ……」  怯えた眼差しを向けられたセルゲイはほんの束の間思考した後、アランの両手足につけた拘束具を外す。それから自ら作業台に上がり、胡坐をかいて座ると彼を正面から抱き締めた。 「アル、ボクの言う通りにするんだ。そうすれば何も怖くないよ」  荒い呼吸とともに大きく上下する背中と、ぐっしょりと汗で濡れた髪を撫でる。そうすると腕の中の幼馴染は少しずつ落ち着いてきたようで、ゆっくりと体重を預けてきた。 「セリョージャ、何をするの……?」 「目を閉じて、リラックスして」  セルゲイは手袋をせず素手のままアランの股座に手を伸ばした。そして、幼い言動に似つかわしくない、血管を浮き上がらせて勃ち上がるペニスを優しく握る。 「あっ、セリョージャ、そこはダメ。友達同士で触っちゃダメって、先生が……」 「大丈夫。ボクが言うことは先生より正しい。いつもそうだろう?」 「うん。でも、セリョージャ。オレ、今変なんだよ。体が熱くて……お腹が……」 「いいんだよ、それで。ほら、気持ちいいことだけに集中して。できるよね、アル?」 「う、うん、セリョージャっ……アッ、んっ」  合図を受けた助手が、ヒクヒクと開閉しながら液体を漏らす窄まりにアームの先端を挿し込んだ。 「あぁっ、せ、セリョージャ、だめ……セリョージャの手、あっ、熱いっ……後ろもっ、何かきてっ」 「……ほら、気持ちいいよね?」 「き、気持ちいいっ……よすぎ、て……オレ、おかしくなるっ……」  手の中のものを優しく扱き続けながら、セルゲイはその視線をモニターに向けた。先ほどと同じくらいの深さまで進んだはずだが、スライムの姿が見えないことに表情を曇らせる。 「アル、君は強い。将来、立派な剣士になれるよ」 「やっん……どうしたのっ、セリョージャ……あっ、だめぇっ……そこ、グリグリしないでッ」 「だから我慢できるよね? 舌、噛まないでよ」 「せりょ……あっ、んンっ」  セルゲイはアランの口に自身の親指を押し入れると、さらに唇で塞いだ。 「ん、んんっ……ぅんんン゛ン゛ッ~~~~!!」  それとほぼ同時に、ぐぽん、と音を立ててロボットアームの先端が直腸内の襞を突き破った。最も狭い個所を抜けたそれは、異物の侵入に抵抗するよう痙攣する内臓を奥深くまで貫いていく。 「ンンっ……ふっ、あ、あ゛あぁっ!! せ、セリョージャ、いっ、痛い!! おなかっ、奥っ、あっ……くるしっ」 「あぁ、そうだね。でも、あと少しの辛抱だよ。アル、おいで。もう一回キスしよう」 「やっ、なっんでっ……ふ、んんっ」  セルゲイはポロポロと大粒の涙を流しながら喚く幼馴染の口を再びキスで塞いだ。そのまま熱い口腔内を舌先でなぞり、握ったままだったペニスをゆっくり扱き始める。ヒトの温もりと性的な快楽を与えてやれば、怯えて強張る体からは幾分か力が抜けていくようだ。 「ん、はっ、ぅん……ンッ……」  体の中心を抉られ、熱いものが込み上げる感覚を味わいながら、アランは走馬灯のように駆け巡る記憶の中にいた。幼い頃の彼は、セルゲイのことを誰よりも信頼し、慕っていた。怖い夢を見た時、母親に叱られた時、剣術の試合で負けた時、彼はいつだって自分より僅かに優秀な幼馴染に泣きついた。 「せ、せりょーじゃ……でも、んっ、オレ、オレもっと頑張るよ……もう、ぜったい……お前に……」  自身の身長が銀髪の幼馴染を超えられないと気付いた時、知識量と頭の回転の速さでは決して敵わないと悟った時、アランは誰よりも鍛錬を積んで強い剣士になろうと決意した。科学者を志す親友とは別の道を歩もうと。そして、それ以降、その手に涙を拭ってもらうことも、親しみを込めて愛称を口にすることもなくなった。 「今も十分頑張っているよ、アル」  セルゲイの舌が頬を濡らす涙を舐め取る。きついカーブを越えた先にスライムの姿が映るのを見て、彼は助手に指示を出した。 「今度こそ絶対逃がすなよ。言わなくてもわかると思うけど、アランの体、傷付けないでね」  獲物にそっと近づいたロボットアームが吸引を開始する。スライムの透明な体はぷるんと揺れて抵抗を見せるが、それも虚しくゆっくりと引きずり出されていく。 「あぁぁっ、いやっ、あっ……!! だめっ、ナカ、引っ張られ……あっ、あぁっ、なんかっ……来ちゃっ……ぁうぅっ」  粘性の高い液体を纏ったアームがピンク色の皮膚を引き攣らせて出てくるのを見下ろしながら、セルゲイは熱く火照った首筋にキスを落とした。ちゅ、と音を立ててやれば、耳元に響く嬌声が甘さを増す。 「ぁんっ、あっ……セリョージャぁ、も、だめぇっ……おねがいっ、たすけてっ」 「……そうだ、もっとボクを頼りにしてよ。アラン」 「いっいやぁっ……も、あっ、イクっ……イッちゃ、うっ……あぁあっ!!」  びゅるる、と勢いよく迸った精液がセルゲイの手と白衣を汚すのと同時に、青く小さなスライムが、ぶるんとひり出されるように飛び出した。 「あっ、おい、捕まえろ!!」  科学者の指示に、瓶を待ち構えていた助手は素早く従う。急に明るい場所に連れ出されたスライムは、クネクネと身悶えするように狭い瓶の中で暴れ始めた。 「はぁ。やれやれ、手間取らされたな。しかし油断して逃げられたのはボクの落ち度だ。……悪かったね」  視線を落とした先には、白衣の胸元を握り締めて寝息を立てる幼馴染の姿があった。セルゲイはそれを見て小さく含み笑いを漏らし、赤ん坊を撫でるようにダークブロンドの髪に触れ、そっと額にキスを落とす。 「いつもこうなら可愛いのにねぇ。無理に追いつこうとしなくても、ボクはどこにも行かないのに。ゆっくり眠って、何もかも忘れてしまえよ」  セルゲイは助手を近くに招き寄せると、声を潜めて指示を出した。 「お湯とタオルと、回復用の薬草を持ってきてくれ。アランの体を拭いて、体内を浄化すれば研究を再開する。先ほど採取した魔物は――」

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