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第4話

 会議室では、先に入った部長が何も言わずに奥の窓際の席にドンと腰を下ろした。 「で?」  そして、怒っているというよりは呆れた様子で郎主任の言い訳を待った。 「『で』、とは?」  けれど主任は、無表情のまま意味が分からないという態度だ。 「いや、だから。なんで火曜やのに一緒に食事なんて…。ウェイウェイらしくないやん」 「……」  ほとんど表情を変えずに、郎威軍は俯いた。 「責めてるんちゃうで。なんかあったんか、って心配してるんや」  もう上司の眼差しではなく、恋人のそれで志津真は真っ直ぐに威軍を見詰めていた。 「それは…」  ゆっくりと顔を上げ、威軍は不安そうな目をして恋人を見た。 「あなたが心配なんです」 「何が?」  意外な答えに、志津真は半笑いで聞き返す。 「何が心配?」  見慣れた優しい笑顔が愛しい。威軍は、じっと志津真を見詰めた。  その情愛のこもった瞳に、志津真もまた威軍への愛情を示してくれる…はずだった、いつもなら。 「何にも無いのに、心配させるようでは、恋人失格やな」  そう言って加瀬部長は立ち上がり、ポンと郎主任の肩を叩いた。 「悩みや困ってることがあったら聞くけど…。俺の事やったら心配いらんよ」  志津真の心が遠い…。なぜかそんな風に威軍は感じた。 「志津真!」  思わず立ち去ろうとする志津真の腕を掴み、振り向かせ、そのまま勢いで威軍はキスをした。  こんな衝動的な行為は初めてだった。自分でも内心は戸惑っているが、それ以上に志津真を失いそうで怖かった。  だが、志津真は優しく威軍を抱き寄せ、情熱的に口づけを受け入れ、深く甘いそれを返してくれた。威軍はようやくホッとする。 「志津真…、お願いです。どこへも行かないで下さい」  ギュッと志津真を抱き締め、追い詰められたかのような声で威軍が呟く。 「アホやなあ。どこへも行くわけないやん。何でそんなこと…」  軽くいなすように笑いながら志津真は言うが、どうしても威軍の不安は消えない。 「俺に言わせたら、お前の方がよっぽど変やん。こんなことする子とちゃうやろ、俺のウェイウェイは?」  そう言って志津真は体を離し、威軍の顎に指を掛けると引き寄せて軽いキスをした。 「とにかく、今日はアカンけど、週末は全部ウェイに捧げます」  おどけたようにそう言って、志津真は再び加瀬部長の顔に戻った。 「さ、暇やからってサボってたらアカンで。仕事しよ」  そして、威軍の心を取り残したまま、部長は去って行った。  1人会議室に残った威軍は、うまく誤魔化されたことでさらに不安を募らせていた。  もしかして、恋人の心が遠く感じるのは、彼に他に好きな人が出来たからではないのか?そんな風なことまで考えてしまう。 (こんなに好きなのは、私だけなのかもしれない)  自分の想いが独りよがりな物なのかと威軍は苦しくなる。  そして、ふとこの痛みと同じ物を過去にも経験していたことを思い出すのだ。 (ずっと、私は志津真に片想いのままなのかもしれない…)  

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