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第7話

 目覚めると深夜2時。  またリビングのソファの上で寝入ってしまったようだ。ここ数日そんなことが続いている。 志津真は、ウンと一つ伸びをして起き上がり、主寝室に向かった。  いつもなら大きいバスタブにたっぷりと湯を入れて、全身を解放するように浸かるのがストレス解消法なのだが、今夜は疲れているせいでシャワーを浴びるのが精一杯だ。  バスルームから、バスローブを羽織るだけで出てきた志津真は、思い出したようにキッチンに引き返す。  冷蔵庫からレモンフレーバーのミネラルウォーターの、500mlペットボトルを取り出し、自分の寝室に戻った。    水を飲み、ベッドに転がると、ホッと一息ついた。    清潔でちょうどいい硬さのダブルベッドに、お気に入りのシルクのシーツが敷かれている。夏用のブランケットも絹の真綿で作らせた薄くて軽い物だ。こんな快適なベッドで寝ているのにも関わらず、ここ数日よく眠れていない。  やたらと夢を見ているような気がするのだが、夢の内容など、これっぽっちも覚えていないのだ。 (ん~、歳のせいか…。年取ると、眠りが浅くなるって言うしな…。なんでやねん)  自虐的なことを考え、自分でツッコミを入れて苦笑した。  けれど志津真は、これが金曜までの我慢だと思っていた。週末になれば、恋人をこの腕に抱いて眠れば、きっと朝までぐっすりと眠れるに違いないと楽観していた。 (ウェイ…お休み)  帰宅してから、今初めて恋人の顔を思い出したことに気付かず、志津真は静かに眠りについた。 *** 「ぶ、部長~?」  加瀬部長は、出勤時間が偶然に重なった部下の百瀬と、オフィスが入るビルのエレベータで乗り合わせた。 「なんや、そんな変な声出して」  眠そうな声で部長は言うが、百瀬は驚いた様子を隠さず、しげしげと部長の疲れ切った顔を観察する。 「『なんや』て…その顔ですよ。まるで、ブラック企業の社畜ですやん。いつもの『仕事なんてどうでもエエよ~』って感じのお気楽な部長の顔や無いですよ」 「誰が『仕事なんてどうでもエエ』とか言うか。アホか」 「…夏バテですか?」  さすがに百瀬が心配そうに言うので、加瀬部長も、それほど顔に出ているのかと気にかかる。 「そんなにヒドイか?」 「見て分かるほどに…」 「そうか~」  そこまで言われると、昨日の郎主任の気遣いを無視したことに罪悪感が湧く。せっかく心配してくれたというのに、突き放した結果がこの(てい)たらくだ。まさに合わせる顔が無い。 「う~ん」 「う~ん、主任に会いにくいですね」 「そやな…って、キミ、何を言うてんねん!」  いつものノリツッコミもどこかキレが悪い。 「せめてランチは、主任と一緒に、ちゃんとしたものを食べに行ったらどうですか?」 「お、百瀬くん、君エエこというな」 「当然ですよ、ふふふ」  仲良く2人がエレベータを降りようとすると、そこにはそのエレベータに乗り込もうとする郎主任がいた。

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