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第11話
「!」
額 に冷たい物が当たった感触に、志津真は驚いて目を覚ました。
目の前に、最愛の人の美貌が迫りさらに驚く。
「え?ウェイ?夢?」
慌てる志津真の前で、冷静な郎威軍は身を起こして、じっと恋人を見下ろした。
「起こしてしまいましたね。申し訳ありません」
「は?夢ちゃうの?ホンマにウェイウェイが?」
動転しながら志津真も起きると威軍の腕を掴んだ。
「うわ、ホンマもんや!」
そういうと、急に子供のような明るい顔をして、ガバっと勢いよく無表情の威軍に抱き付いた。
「ウェイ!」
「今朝、会ったばかりじゃないですか…」
感極まったような志津真とは対照的に、威軍の対応は冷ややかだ。
「で、何で?なんで俺のウェイウェイがここに居るの?」
サラリと「俺の」などと言う志津真が、威軍の気持ちをギュッと掴む。だが、「人造人」主任はそんなことで表情を崩すことはしない。
「体調不良で早退したと聞いたら、様子を見に来ても不思議ではないと思いますが」
「けど、仕事は?」
恋人が仕事すら打ち捨てて駆け付けてくれたとなれば、嬉しいには嬉しいのだが、上司としては複雑だ。微妙な表情で志津真が訊ねると、さすがに呆れたように威軍が答える。
「定時までに片付けて来ましたよ。今の時季は残業するほどの急ぎの仕事はありませんし」
「へ?」
腑に落ちない様子で志津真が枕元の時計を振り返ると、すでに時刻は7時を過ぎていた。
「ああ。もうそんな時間やったんや…」
ぼんやりと呟く志津真に、威軍は急に優しく微笑んだ。
「クリニックで薬を出してもらったんですね。数時間でもぐっすり眠れたようで良かったです」
「あ…うん、…そうやな」
薬を飲んでベッドに入ったまでは、覚えている。けれど、それからずっと夢を見ていたようで、「ぐっすり眠れた」という爽快感がない志津真は、曖昧な返事をするしかなかった。
「7時に夕食のデリバリーを頼んでいたでしょう?私がいなければどうするつもりだったんですか?」
「へ?」
定時の6時に仕事を終え、6時半にはオフィスを出た威軍はすぐにタクシーで恋人の自宅へ向かった。7時前には合鍵で部屋に入れたのだが、志津真が眠っていたので夕食の準備でもしようかと思っていた時だった。ルームサービスが、志津真が注文していたデリバリーを受け取って届けてくれたのだ。
郎威軍が志津真の部下であり、中国語が話せない上司のためにプライベートでも長年サポートしていることを知っているスタッフは、何の疑いも無く威軍のサインで商品を渡してくれた。
「さあ、食事の用意が出来ていますよ。食事をして、シャワーを浴びてさっぱりしたら、また薬を飲んで寝て下さい」
そう言うと威軍は、志津真を支えるようにして起こした。
「ん~、オハヨウのチューして」
「ふざけている場合ですか!」
甘える志津真を一喝して、威軍は先に立ち上がり、キッチンに向かう。
寝室のドアを開けながら、一瞬考えた後、思わせぶりに振り返った威軍が言った。
「食後のデザートなら、考えてあげます♪」
そこに艶やかな笑顔を添える威軍の可憐さにドキリとした志津真は、急いでベッドから飛び出した。
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