14 / 18

第14話

「はあ、はあ…」  息を荒げて志津真はゴロリとベッドに仰向けに寝転がった。  威軍がその隣で息が整うまで待っていると、気付けば志津真は薬も飲まずに寝入っていた。 (良かった…。眠ってくれたら…)  ゆっくりと体を志津真の方に向け、威軍は志津真の寝顔を見た。 (好きです…。貴方の横顔も、人柄も何もかも、ずっと好きでした。ずっと…私の片想いだったとしても、私のこの気持ちは本物です。これまでも好き。これからも、ずっと好き…)  満たされた体に、心も落ち着いた威軍は、幸せそうに志津真を見つめ続けた。 「ん…んん…」  その時、夢でも見ているのか、志津真が苦しそうに呻いた。 「志津真?」  本当に具合でも悪くなったのかの心配した威軍が、顔を覗き込んだ時だった。 「…ん…、ルイ…」 「!」  信じられないことに志津真が威軍以外の名前を口にした。 「……」  瞬間、威軍は全身の血が引き硬直した。  何故だか、それが志津真にとって特別な男の名前だと直感した。  これまでに志津真から聞かされた、家族や友人やビジネス関係者にそんな名前の人間はいない。  「ルイ」と言う名からは、日本人なのか、中国人なのか、欧米の人間である可能性もあって、まったく誰の事か見当もつかない。  志津真の寝息が落ち着いたのを確かめ、威軍はベッドを抜け出し、密やかに身なりを整えた。 (帰ろう…)  それしか頭には無かった。何も考えたくなかったし、考えられなかった。  雲を踏むような感覚で、フラフラと寝室を後にした威軍がドアを開き、リビングに出ると、そのソファに見知らぬ人物が悠然と座っていた。 *** 「你…是郎威軍(君が、郎威軍だね)」  まるで自宅のようにソファで寛ぐ美しい男性に問われ、何も言えずに威軍は頷いた。  自覚は無いが、威軍もその美貌を称えられることがある。  しかし、目の前のこの人のそれは、威軍の持つ造形的に整った美しさではなく、容貌、仕草、雰囲気など、この人の存在の全てが見た者を魅了する何かを持っていた。そこに居るだけで、これほど蠱惑的で濃艶な男性を、威軍は見たことが無かった。  硬い表情のまま黙って立ち尽くす威軍をどう思ったのか、クスリと笑って男性が言った。 「你是威威吗(ウェイウェイなんだろう)?」  その呼び方に、威軍はハッと顔色を変えた。  それを面白そうに見つめていた彼は、一度優雅に目を閉じ、次に、ほんの少し意地の悪い光を湛えて威軍を見据えた。 「I'm hearing about you from …Shizuma(君の事は志津真から聞いてる)」  ネイティブのような綺麗な英語でそう言われ、威軍は一瞬返す言葉に詰まった。

ともだちにシェアしよう!