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第15話
「我是他的下属(私は彼の部下です)」
ようやくそれだけを言うと、威軍は落ち着きを取り戻した。
(そう…、私は彼にとって、ただの部下…。それで十分だった…)
そんな風に自覚すると、威軍は、日頃「人造人主任」と揶揄されるほどの冷静さと無表情で、見知らぬ相手に対して攻勢に出る。
「你是Rui先生吧(『ルイ』さんですね)」
「是。我是鳳睿(ええ。フォン・ルイです)」
だが相手は何ら動じず、平然と名乗った。
そして、威軍を手招きするとソファに座るように指示した。
断る理由もなく、威軍は静かに隣に座って相手の出方を見ていた。
〈心配させてしまったようだけれど、彼は君を愛しているよ〉
〈!〉
いきなりルイは核心を突いた。威軍の心を見透かしているかのようだ。
威軍は言葉を失い、ただじっと妖艶なルイの美貌を見つめることしか出来ない。
〈志津真が私の事を忘れられないのは確かだ。でもそれは後悔のせいで、君に対する愛情とは別の物なんだよ〉
吸い込まれそうに魅惑的な濡れた瞳で、ルイは威軍を真っ直ぐに見つめて真摯な態度で話し始めた。
威軍自身、彼の魅力に囚われたかのように、その視線を逸らせなかった。
〈志津真は、ずっと私を幸せに出来なかったと後悔している。だから、君を絶対に幸せにしたいと思っているし、そうすることが自分の幸せだとも思っている〉
威軍はルイをじっと見つめながら不思議な気持ちになっていた。
ルイの見た目は、志津真と同じくらいか、むしろ少し若いくらいに見えるのに、まるで志津真の事をずっと年下のように話している。
〈彼が本当に愛しているのは君だ。私は、彼のいつまでも消えない心の傷を癒しに来ただけ…〉
そう言ってルイは少し寂しそうに眼を伏せた。
威軍は、自分と同じくルイもまた、今でも志津真を愛しているのだと気付いた。
〈志津真が、私への負い目のような心残りを消してくれたら、私は彼にとって、ただの思い出になる。そうすれば…〉
ふいにルイが威軍の手を取った。それはとても冷たい手で、これほど華やかな美貌と妖艶さを持つ人にしては悲しい印象だ、と威軍は思った。
〈志津真は心から君だけを愛している。だから、いつかは私の事もきちんと君に話せるはずだ〉
そう言われた威軍は、このルイこそが自分に出会う前の志津真が、心から愛した人なのだと悟った。本当に愛した人だからこそ、今でもまだ心の整理がつかずに自分には話してくれない相手なのだと知ってしまった気がした。
〈不安にさせて悪かったね。でも、ちゃんと志津真は君の…君だけのものだから安心して〉
そしてルイは艶やかに微笑み、威軍の頬に触れた。
〈良かった。志津真がこんなに綺麗でイイ子と出会うことができて…〉
理由は分からない。ただ、その一言が嬉しくて、切なくて威軍は涙が零れるのを止められなかった。
〈君のような子が、志津真を愛してくれて、本当に良かった。彼にはその価値があるからね〉
何も言えずに、威軍は頷いた。
そうだ、志津真には威軍の愛を、人生を、全てを分かち合う価値がある。
〈ごめんね、君を傷つけるつもりは無かったんだよ。お願いだから、志津真を諦めないでね。信じてやってね。…ずっと愛し続けてね〉
威軍には、その先の「私の分まで」というルイの心の声が聞こえた気がした。
〈ウェイウェイ…。私は君も大好きになったよ。君になら、安心して志津真を任せられる〉
そう言ってルイは威軍を抱き締めた。その温もりが心地よく、威軍はうっとりとして目を閉じた。
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