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第17話

 目覚めると、威軍は志津真の腕の中だった。志津真はスヤスヤと眠っている。  そっと目だけを動かしてベッドサイドの時計を確認するとちょうど深夜12時を回るところだった。  今から帰れば、明日の出勤には間に合うと判断して、威軍はソッと志津真から離れようとした。 「ん?なんや?」 「あ…ごめんなさい。また起こしてしまって」 「かまへん。ウェイが黙って帰ったりする方がイヤや」  威軍の行動を察していたらしい志津真がそう言った。  後頭部に手を掛け、ゆっくりと威軍を引き寄せると、志津真はコツンと額を重ね、それから鼻を擦り合わせ、そして重ねるだけのキスをした。 「帰るんやろ?」 「…ええ」  互いに別れがたく思っているのは間違いなかった。それでも、威軍は明日の仕事のために帰宅するし、志津真はそれを見送るのだ。 「なあ、ウェイ」 「なんですか?」 「…週末は、ずっと俺の傍にいてくれるか?」  心細そうに志津真が言う。  それを笑い飛ばすように、威軍が珍しく天真爛漫な表情で言った。 「イヤだと言われても傍にいます。週末だけじゃなく、この先、ずっと…」 「ウェイ…」  晴れやかな威軍の顔に、志津真の胸のつかえもスッと消えた。 「帰る前に、…薬を飲みますか?」  一糸纏わぬ姿だった威軍が、足元に落ちたシャツを取り上げ、下着を取り上げ、身に着けると立ち上がって振り返った。  その憂いの消えた爽快な笑顔の威軍に、志津真は見とれてしまった。この美しい人が、一生自分の隣で生きていくことを決めてくれたことに、自分の幸運を噛み締める。 「ウェイの顔見れたし、今夜はもうぐっすりと眠れると思うねん。もう処方薬はいらんわ」  志津真はそう言って、じっと恋人を見詰めていた。  その視線を静かに受け止め、威軍もまた、この優しさと慈しみと愛情の深い加瀬志津真と言う男と生きていく自信が生れていることに気付いた。 「なあ、ウェイ」 「なんですか?」 「俺といて、幸せか?」  冗談めかした口調で言うが、志津真の目はこの上なく真剣に、威軍には見えた。 「正直に言って、いいですか?」 「ん?」 「あなたが幸せなら、私も幸せですよ」  威軍の微笑みに、志津真は一瞬ハッとしたが、すぐに得心して頷いた。  そして、いつもの人好きのする悪戯っぽい顔つきになり、 「週末、覚悟しとけよ」  と言って、得意なチャーミングな笑みを浮かべた。 「楽しみにしていますね」  それを受けて立つように威軍も、茶目っ気たっぷりに応えて微笑んだ。 「もし、明日まだ具合が悪かったら、休んで下さいね」 「ん、もう大丈夫。けど、悪いけど見送らへんで。このまま寝るわ」 「はい」  ドアの脇にある電灯のスイッチに手を掛けて、威軍が答えた。 「おやすみなさい」 「おやすみ。気ぃ付けて帰ってな」  もう一度2人はしっかりと目を合わせ、言葉のない会話をすると、威軍は明かりを消した。

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