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3話 夏のカフェテラス

 矢柄樹のパリでの講演会は、今年で4回目を迎える。聴講者も必然顔馴染みが増えてきたため、講演会後のパーティーなども特段開催しないよう、また、開催するなら自身は欠席することを事務局に願い出ている。  今日の予定をすべて終わらせ、パリらしい、赤いパラソルが開放的なカフェのテラス席に座る。いつものごとくエスプレッソを頼もうとしたが、すこしだけ強張った身体の緊張をほぐすため、フラットホワイトを頼む。早朝4時起きの身体に円やかなミルクが染み渡る。  疲れていたのだな、と樹は思う。  平日夕方のカフェだと言うのに客は多い。一杯の白ワインをお供に新聞を読み耽る初老のムッシュ、卵料理に舌鼓を打ちながら四方山話に花を咲かせるマダム、それから、まだ会社勤めの時間だろうと嗜めたくなるような若い男女のカップルが、これでもかとミントを詰め込んだ涼しげなグラスで乾杯をしている。  気楽な国民だよ、本当に。  そう毒付いてみたが、その言葉とは裏腹に、彼らへの爽やかな愛しさを樹は感じている。夏のパリの風の香りが鼻腔をくすぐると、ふと胸が空くような思いがした。ジャケットを脱いで片手に掴み、徐ろに席を立つと、樹は、パリの街中へと軽い足取りで進んでいく。

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