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12話 愛しい

 「んあっ…、んーっ…。」  絵の苦しげな声にふと我に返ると、樹は己がバーカウンターに絵を押し倒し、その舌先を無心で吸い上げていたことに気づく。目の前には蕩け切った絵の顔。脱力し切った長い四肢が投げ出されている。  「すまない…。やり過ぎた。」恍惚の表情の絵を抱き上げ、カウンター内のバーチェアに座らせる。  はぁ、はぁ、と苦しげに呼吸する絵の背中を優しく撫でる。  あぁ、紅潮した絵の顔はなんと美しいのだろうか。男の自分が思わず見惚れてしまう。  しかし同時に幾人もの男が、樹と同じように絵を抱いていることに堪らない気持ちになる。普段なら絶対に言わない言葉が思わず口をつく。  「絵、君は…。何人の男とこんなことをしているんだ?」  一瞬間を置き、  「…樹さんだけだよ…。」絵の弱々しい応えが返ってくる。  嘘をつけ。そんな甘い言葉に騙されてなどやるものか。そう毒づこうとするも、確かに心の奥底で何か温かい感情が湧き出るのを感じる。  それが、この男を愛しく思う感情であることに気づかない程、樹は鈍くはなかった。        

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