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※市長オフィス・ウィズ・ヴェラスコ その2

 小柄で、自分から言うのも何だが整った顔立ちをしていた為、異性同性問わず可愛がられる事には慣れている。スイスのボーディング・スクールへ転入したときも、キュートな下級生が入ってきたと上級生の女の子達が寮まで覗きに来たし、ローファームでは先輩達が弄り半分で色々構ってくれた。全く蟠りを感じないと言えば嘘になるが、利点の方が圧倒的に多かったので、これまで享受してきた。ここにたゆまぬ努力を足せば、何だかんだ上手く世の中を渡っていけるものだと、信じて疑ったことがない。  その慢心がいけなかったのだろうか。熱が籠もる脇を舐められ、羞恥から思わず顔を背ければ、ハリーは笑い混じりの吐息を、赤らんだ耳にうっとりと吹き込む。 「ああ、ヴェラ、凄く可愛い」  同時に、ぐり、と重量感たっぷりの尻で屹立を押し潰される。未だ脱ぐのを許されないトランクスは先走りで色を変え、伸縮性のある布がペニスに張り付き、見るも無惨な有様になっていた。 「っ、もう、いいでしょ……確かに、あ、相手が優位のプレイも、悪くない……」 「いいや、こんなのまだ序の口さ」  そう言うハリーも、とっくに興奮の高みまで引き上げられている。口元の涎を手の甲で拭い、わざとゆっくりした仕草で体をずり下げる。下着の穿き口へ、人差し指が掛けられ、軽く引っ張られた。  今フェラチオをされたらまずい、絶対30秒も保たない。全く不本意な話だが、冷や汗は熱を醒ましてくれる事などなく、寧ろ昂りへ直結する。  幸いハリーは、勢いよく飛び出した性器に触れることをしなかった。スラックスのポケットから取り出されたのはサージカルテープに、手のひらへ乗る大きさをしたカプセル状のプラスチック。蛍光ピンクをしたセックス・トイは、普段ならばヴェラスコが好きに使う。だが今ハリーは、玩具みたいなリモコン一つで振動するそれを、力の入らない部下の脚の間へ忍ばせた。 「心配しなくても、いきなり処女を散らしたりはしないさ、今日のところは」  引き伸ばしたテープを歯で適当な長さに千切りながら、上機嫌に嘯く。  機械が固定されたのは、陰嚢の奥側。頭が付いていかず、身を強張らせたままのヴェラスコのこめかみに、ハリーはキスを一つ落とした。幼子を寝かしつけるような仕草も、お互いの熱っぽい肉体を意識すると酷く卑猥に感じてしまう。 「ここ……君は知らないだろうな。僕のも触ってきた事がないし」 「生憎、男性と寝るのは、正真正銘あなたが初めてですから」 「奇跡だよ。君みたいな可愛い子、引く手数多だったろうに」 「可愛いって言うのは、止してくださいってば。特に今、このタイミングで」 「だって事実じゃないか」  ちゅっちゅと頬や瞼に口付け、満足げに笑うハリーこそ、チャーミングを絵に描いたようだった。 「じゃあ、今日は初めて尽くしだな……思う存分、楽しめよ」  スイッチを入れられ、思わず体が跳ねたときは、てっきり睾丸へ振動が波及しているのかと思った。だが違う。まるで腹の奥に、重く鈍い快楽を放射する物質を埋め込まれたかの如く、一瞬にして気持ち良さが内臓へ回る。 「ぅあ…?! ちょ、ハリー、これ……」  狼狽えて身を起こそうとしたヴェラスコの肩を押してカウチへ戻し、ハリーは己の服を脱ぎ始めた。悠然と、殊更時間を掛けながら。  その間にも、ヴェラスコは煩悶を続けねばならなかった。ぶわりと全身に汗が噴き出し、脚が突っ張る。身を反らせば腹筋がひくひくと痙攣しているのが分かったが、自力で止めることは出来そうにない。こんな安っぽい、小さな玩具に翻弄されるなんて。頭上の腕置きを強く握りしめていないと、あっという間に射精してしまいそうだった。  そもそも、これは射精程度で収まるのだろうか。生み出される熱はぐるぐると腹の中で渦を巻き、解放を求めている。けれど、逃がす場所などありはしない。まるで出口の見当が付かないのだ。  身体が震え出したのは、遂に決壊して全身へ巡り始めた快感だけではない。いつまでも、きっと再びリモコンのスイッチが押されるまで、決して止まることが無いと知る恐怖。 「ぅ……あ……」  伸ばした力の入らない手を、必死に己の命運を握る男へ伸ばす。はだけた胸元へ抱き寄せられるという、単純な肉体の接触にすら、肌の下をぞわぞわ何かが這う感覚に襲われる。 「よーしよし。大丈夫だ、ヴェラ。深呼吸しろ」  そんなこと、出来るものならばとうの昔にやっている。は、は、と犬のように短い呼吸へ、ハリーが口角をつり上げたと分かったのは、再び唇を重ねられた時だった。  何度も何度も、頻繁に角度を変えて続けられる口付けへ同調することは、もはや不可能だった。だらりと力のない舌を引きずり出されて、好き放題に貪られる。酸欠で思考回路が完全に麻痺し、ヴェラスコは気持ちいいことをただ受け取り続けた──だが何事も、過ぎれば毒になる。過剰なほど敏感になった肌が、粘膜が、感受の限界を超えている。 「ゃ……ハリー、これなにっ、こわい……」 「まだ、行けるだろう。君はこの街の、市長付広報官なんだから」  顔を離したハリーの唇も、すっかり充血している。ほんやりと口を開けて見とれていたから、舌から糸を引きながら垂れ落ちた唾液を受け止めさせられる時も、なすがままだった。 「ああ、かわいい……」  また可愛いか。勘弁してくれ。もう何もかもから遁走したい。全身の神経が剥き出しになったようにな、こんな感覚きつ過ぎる。戯れに乳首を指先でぴんと弾かれた時は「あぁっ!」と女のような嬌声を上げてしまった。  それでもヴェラスコは、白旗を掲げることだけは決してしなかった。もはや男としての矜持などズタボロになっている。まともに動かない頭でも、今自らがはらわたに溜め込んでいる感覚が、普段追い求めているものと一線を画しているとは流石に理解していた。それでも、好機が一つでも転がっているのならば、諦めたくなどない。自らは恵まれている。せっかく与えられチャンスを掴み損ねるなんて、自分を許せない。 「ひ、くっ……あ、あぁっ、あっ、あっ」  身を悶えくねらせ、必死に堪えているヴェラスコのペニスへ避妊具を被せ、ハリーはしなしなとソファに崩れ落ちた肢体を、駄目押しとばかりに両手で撫で回した。 「んっ……」 「そう、良い子だ」  がくがく笑う膝をぽんと叩いてから、身体を持ち上げ、限界を訴えて震える昂りに窄まりを押し当てる。その腰を掴んで引き寄せる、がむしゃらに突き上げてやる。切実な願望を実行に移そうとしたが、朦朧とした脳を叱咤し、指示を出しても身体が全く動いてくれない。  主導権を握るのはいつでもボスだ。 「あ、あぁっ、ハリー……」 「っ……!」  ぬぷぷぷ、と一気に深い所まで押し込むものだから、ハリー自身にもかなりの衝撃が走っただろう。一瞬、ぐらりと上半身が仰け反る。太い喉がぜいぜいと空気を通し、震えている様の何と扇情的な事か。腹筋に力の籠る体位で、ぎゅうぎゅうと容赦ない締め付けも相まり、己のものが益々いきり立ったのを、ヴェラスコは否応なく感じ取らされた。  やがて、勢いよく体勢は立て直された。ふう、と汗みずくで微笑む顔を、ちかちかと明滅する視界で辛うじて捉える。天使や悪魔なんて超越した、神のような表情だ。神は万能であり、大抵無慈悲なものだった。 「ヴェラ」 「は、ぃ?」 「降参か」  ヴェラスコの胸に張り付いたロザリオを指で掬い、揺れる鎖で鞭打つよう、ぷっくり腫れ上がって震える乳首へぶつけられる。ひ、と、息を飲みながらも、ヴェラスコは必死に首を振った。正直、一秒でも早くイキたくて気も狂わんばかりだったが、これだけは譲れない。  何故なら本能だから、遺伝子に組み込まれているのだ。勝つまでやり続ければ負けることは絶対にない。ヴィラロボス家は、両親は、そうやって戦い抜く姿を、身を以て子供に教えた。 「っ、ここから、ですよぉ……今からは、っ、あなた、が、アンアン言う番ですぅ」  弁護士の肩書きも泣く、へろへろした滑舌になった事は否めない。けれどハリーは笑みを悶えるような形に変え、身を震わせた。ぞぞぞ、と高みへと引き上げるような直腸の摩擦蠕動へ耐えられたのは、奇跡に近い。 「……っ、ヴェラっ、君は、僕の、見込んだ、通り、最高だ……!」  その後はもう、これまで繰り返された通り、散々可愛がられた。搾り尽くされて最後は全身が溶けてしまったかのようだし、途中明らかに性器への直接的刺激以外の要因で射精した。  それでも構わないと思ったのは、彼に認めさせたからだ。少なくとも自身はそう思うことが出来た。それが一番大事だと、この時ばかりはヴェラスコも己に許した。

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