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※ベッドルーム・ウィズ・モー その2

 体を拭くのもそこそこに腰へタオルを巻いたのは、頭へ叩き込まれた最低限の礼節へ肉体が反応したからだ。けれど本能が待っていてくれたのはそこまで。こちらは生まれたままの姿で、好奇心に目を輝かせる男を、さあどうしてやるべきか。まともに動かない頭が弾き出した答えの正しさを確認する前に、モーはハリーを担ぎ上げていた。まるで屠った家禽か、戦場で負傷した仲間へするように、両肩へと。 「ちょ、モー?!」 「落としたくないので暴れないでください」  流石に慌てた様子で肩を叩かれ、ばたつく脚に腕を蹴られる。だが食い縛った歯の隙間からそう吐き捨てれば、一瞬の緊張の後、抵抗は止む。  ベッドへ投げつける勢いで落とした体へ、折り重なるようのし掛かる。ハリーは低い呻きと共に喉を晒し、鬱血が刻まれるのを受け入れた。 「油断してた。君がこんなにも情熱的だったとは、全くの想定外だった……」 「俺だって男ですよ」  月並みな台詞に、紅潮が耳まで広がったと分かる。腕を伸ばし、ぐしゃぐしゃと生乾きの髪をかき混ぜながら、ハリーは恐る恐る囁く。 「優しくしてくれ……それが無理なら、たくさん愛してくれ」  勿論、と前者のお願いに対して言おうとしたのに、肩の付け根を噛む時は少し、力加減を誤った。服で見えない場所とは言え、間違いなく歯形が残るような真似をしたのは、これが初めてかも知れない。  後者に対しては言わずもがな。先ほどバスルームで弄っていたせいで腫れている乳首、ハリーの明確な弱点に強く吸い付き、反対側は指でふわりと膨れた乳輪ごと摘んでやる。彼の脚が足掻くたび、お互いの水気を纏った肌にシーツが絡みつき、もどかしい。 「っんぅ、ぁ、ん……」  普段よりあえかな響きで漏らされる吐息に、彼を獲物と見なしている事を強く意識してしまう。  明らかに、ハリーは緊張していた。市長になってから、初めてこういう目的で部屋に男を連れ込んだと言っていた。彼が何故そんなことを思いついたのかは分からない。ただ、今の己に、食べられたがっているこの男を貪らずにいることは、相当難しかった。  焦るな、気遣え。理性がそう、最大レベルの警戒を発している。  普段から、肌に吸い付かれただけで身悶えする敏感さを備えた肉体だ。刺激を連ねるよう、丁寧に胸から鳩尾、腹を唇で辿り、臍に舌を捻り込んでやったときには腹筋の硬直を撫でる手のひらで味わう。 「は、ぁ……ひっ、んんっ、モー、くすぐった、い」  最小限に絞られたベッドランプが作る薄暗がりは、体の些細な身じろぎすらもちらちらと炙り出す。この繊細な陰影こそ、本来ハリーが身に纏っているべきものではないか。破瓜を目前に控えた処女のように、ぎゅっと目を瞑っている表情。濡れ髪を擦り付けられ、黒っぽく滲む枕。非現実的に見えるものと、逃れようもない現実が交差し、頭がぼんやりする。 「こ、こら、モー、待て、やめなさい!」  驚愕の余り、犬を躾るような声を出されたことで、はっきり意識する。己が彼のペニスを口に入れていたことを。初めての経験だった。幾らハリーにして貰っても、これだけは返してやれないだろうと思っていた行為。一つ、心の中にあった高い障壁を、こうも容易く乗り越えるとは。  先ほど洗われたせいか、思ったよりも嫌悪は感じない。確かに自覚してしまえば、このアルカリ的な匂いと粘つきは鼻につくが、繰り返して慣れたらどうとでもなりそうだ。  ぐいぐいと髪を引っ張られるのもお構いなしに、モーは使われないのが勿体ない、立派なペニスを含み直した。己がされた事を思い出し、ぐっと奥に……窒息しそうになり、えずきでぐうっと喉を膨らませれば、刺激と受け取ったのか、逞しい太腿が耳を掠める。妥協して半ばまで納め、竿の血管を辿るように舌で擦ったり、充血してずんぐり肥えた亀頭を口蓋で締め上げたり。 「あぁっ……くそっ、これは……」  嘆くような物言いと裏腹、ハリーが荒げる息の音は快楽由来だし、腰は絶えずうずうずと蠢かされる。出来るだけそっと、根本を押さえ込めば、手の下で睾丸がぎゅっとせり上がったのを感じ取れた。  こぷっと一際粘り気の強い液体が先端から噴き出したのを気に、モーは見事な勃起を吐き出した。手首で口を拭い、投げる上目に何を見いだしたのだろう。ハリーは引き結んだ口の中でむずかりを噛み、腕を引く。  熱烈な接吻を与えられた時、あなたのを舐めてたんですよ、と止める暇もなかった。寧ろフェラチオをさせた口だから、彼はこんなに急いているのかも知れない。潜り込んできた舌は、モーの唾液を根こそぎにするかの如く、熱心に動き回る。堅い逸物を用いて準備運動をした口腔内は、普段よりも刺激へ強く反応する。新たに学び、モーは浮かされる頭のまま、敷き込んだ股ぐらへ手を差し込んだ。  予想通り既にアナルの準備は済まされていた。柔らかく瑞々しさすら感じる縁をぐにぐにと指の腹で撫で回し、具合を確かめれば、ハリーの鼻から甘ったるい息が抜ける。1本目の指をずるりと受け入れた時には、唇が外れた。 「あっ、ああっ、ああっ、っは、あ」  出来る限り深いところまで突き入れ、それから抜けきる寸前まで戻ってくる動きを繰り返すのは、一刻も早くここにはめたいからだった。襞が塗り込められたローションと腸液でぬかるみ、粘り着く様に異物を食み締める。先を促されているようで、脳が焼き切れそうだった。肋骨を割りそうなほど強く、腰に回された脚もまた、自惚れを助長する。 「っ……! ぁ、あ、ぅ、っん! や、モー、ぁあっ」  2本、3本とまとめて増やした指に、飲み込んだ縁の締め付けは心なしかきつさを帯びた。宥めようと、すっかり腫れ上がり、待ちかまえていた腹側の凝りを突くように潰す。 「あ゛、っひ、いぃ、それ、すごく……」  掻いて、指で挟んでこね回して、己の指一つで全身がびくびく跳ねる。モーは体を益々倒して肌を密着させ、ハリーをマットレスへ強く押しつけた。が、頬を打つ熱い息が扇情的で、堪らず首を持ち上げる。  駄目だ、こちらの方が余程強烈な刺激だ。閉じるのを忘れられた唇からは、だらだらと唾液が伝って髭はべたべた、反らされた顎にまで到達している。次々とこぼれ落ちる短い喘ぎでも乾かすことは到底出来ない。薄く閉じられた瞼が震えて、濃い睫に乗った小さな滴を弾き飛ばす。眉間に寄せられた薄い皺にすら、心臓は鞭でもくれられたように鼓動を早める。不規則に狂った己の呼吸へ恐怖すら感じた。 「ぅあ゛っ、ぁあ…!」  勃起がきつすぎて下腹が痛い。含ませた指をぐちょりと広げて最終確認し、「コンドームどこですか?!」と殆ど怒鳴り付ける勢いで尋ねていた。震える指でさし示されたナイトテーブルの引き出しは開きっぱなし。新品の避妊具は紙箱の蓋を千切ったし、性器に被せる時も焦って一回破く。 「はやくっ、はやく、してくれ」  殆ど泣き叫ばんばかりの声で強請られ、耐えられなかった。痕が残ることなどお構いなしに腰を強く掴み、くちゅくちゅと一人で音を立てているアナルに先端を押しつける。 「ーーーーっ!!!」  一気に貫かれ、ハリーは声も出せずに全身を硬直させた。間違いなく、いきなり奥の、やもすれば苦痛を感じているのではないかと思える時すらある、あの場所まで行ってしまった。  背の皮膚を掻きむしる爪の感覚で、ようやく我に返る。 「ハリー? す、いません……!大丈夫ですか」  慌てて身を離そうとすれば、ぐぎゅ、と彼の腹の奥で音が鳴り、雁首で円を描くかの如く窄まりを広げてしまう。 「ひ、ぅ……! っく……」  擦り付けられる額の動きと共に、ほと、と首筋を濡らす滴は汗ではない。鼻を啜る音が、耳の奥で痛いほど反響する。 「抜きます、ハリー、落ち着いて」 「だめだ、っ、つづけろ!」  これは、彼がもう我慢が出来ない時の口調。気取りや取り繕いをかなぐり捨て、本音を剥き出しにせざるを得なくなった声。ばくばくとうるさいのは、どちらの心臓だろう。 「きもちいい、モー、すごくきもちいいんだ」  泣きながら、ハリーはそう訴えかけた。  情けない話だが、その時になってモーは、ようやく気付いた。緊張していたのは、己自身に他ならない。彼が受け入れようと手を差し伸べていたのに、すっかり頑なになり、拒絶しようとしていた。それでもハリーは、待っていた。焦らず、気を遣って、上手く引き出してくれたのだ。  もう待たせる訳には行かない。遂に力尽き、どさりとシーツの上に落ちる汗だくの体を見下ろし、力無い脚を抱え直す。 「ハリー、嫌な時は殴って止めてください」  じゃないと泣こうが喚こうが続けます。最悪の宣言に、ハリーは汚れ果てた顔へ、喜悦に満ちた笑みを広げた。

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