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第5話
「そんなに嬉しいか?」
「はい。すっごく嬉しいです」
昨夜の惨劇を再び起こさないため、今日の昼は要と一緒に食堂でとることにした。どうやら機嫌はとれているらしい、幸せオーラが駄々洩れている。
「白米多くないか?こんなに食べれないよ」
「あ、じゃあ、俺が少し食べますね」
「うん」
茶碗を要に渡すと、周囲から黄色い声があがる。食堂に二人で来てからずっとこんな感じだ。多数の視線が痛くて、せっかくのカツの味がよくわからない。
「あ、ソースついてますよ」
要が俺の口についたソースを指で拭ってそれをぺろっと舐めると、黄色い歓声は一気に大きくなった。
「おまえ、わざとやってるだろ」
「はい。ラブラブぶりを見せつけたくて」
「はぁ・・・・」
なんなんだ、この展開は。男が二人で飯を食ってるだけなのに、なぜ女子生徒達はこんなに騒ぎ立てるんだ。
「あ・・・あの」
取り巻きの中から勇気ある複数の女子生達が話しかけてきた。
「今、最北大の吉沢助教授がイケメン教授だってインスタでバズってるんです。でも、私たち、月島先生と音橋先輩のコンビの方が絶対かっこいいと思うんです」
「吉沢助教授知ってるの?」
「はい、見ますか?」
「みたい」
「これです」
「へえ、この人か」
「あの、写真撮ってもいいですか?」
「俺はかまわないけど・・・」
要がそう言ってこちらに視線を寄越す。
「好きにして」
吉沢先生、結構若いな。経歴を調べたら、w-educationの活動に一時期参加していたみたいだし、案外あっさり協力してくれるかもしれない。
うちの教育学部と接点はないみたいだし、学部長にさっそく話を通してみるか。
夏の視察へと思考が傾くと、そのあとは女子生徒達の姿は視界から消え、俺はカツを食べ終わることに専念した。
要の視線に悲しみが混ざっていることには、この時の俺には知る由もなかった。
🔷
「こら、学校ではこういうことはしない約束だろ?」
例のごとく資料室にて、今日は前からがっつり抱きしめられている。
「すいません。でも、蒼が俺のものだって確かめたくなっちゃって」
「何いってるんだ。そもそも俺はお前のものではない」
「昨日の夜は、あんなに俺のものだったじゃないですか」
「やめろ、その話はするな。機嫌はちゃんと取ったはずだ」
「はい、そうなんですけど・・・・」
「なんだよ?」
「昼ごはんの途中から、夏のこと考えてましたよね?」
「え・・・・あ・・・・あぁ」
「吉沢助教授の写真見てから、俺の話、全然聞いてなさそうでしたし」
「えっと・・・ごめん」
考え始めると、ほかのことが飛んでしまう。俺の悪い癖だ。
「だから、ちょっとだけ、ね、キスだけさせてください」
「・・・・仕方ないな・・・・・一回だけ」
「はい」
「・・・・・?ん?要?」
来ると思っていたキスが来ず、目を開けると、気まずそうな要の顔が俺を通りすぎた向こう側を向いていた。
「?・・・・げ、健兄 」
振り返ると、にやにやしている学部長がいた。
「最近仲いいとは思ってたけど、なるほど、そんな仲にまでなってたわけか。いや~蒼にそういう人がね。総一郎にも話してやろう」
「総一郎おじさんには言わなくていいから。てか、ノックしてよ」
「ノックしてくださいだろ。俺はお前の上司だぞ」
「はぁ、すいませんでした学部長、何か御用ですか?」
「いや、君たちが食堂でラブラブだったと学生たちがさわいでいたから、冷やかしにきただけだ」
「出てけ!」
「そう怒るなよ。じゃ、音橋君、蒼をよろしくね。あ、でも、学校ではほどほどにね」
「はい」
にっこり笑って学部長を見送る要に苦笑する。学部長が出ていくと、要が何か聞きたそうな顔でこちらを見てきた。
「総一郎おじさんは、俺と一緒に暮らしてた人。父親の兄だよ。小1からおじさんと二人ぐらしだったんだ。で、学部長はその総一郎おじさんの旧友」
「そうだったんですね」
まあ、このくらいの説明で十分だろう。俺の生い立ちは聞いて心地いいものじゃない。まして、要のようなやつには想像もつかない世界だろう。
「お前も、こりたら学校でこういうことするなよ。誰に見られているかわかったもんじゃない」
「そうですね。する時はしっかり鍵をしめないと」
ガチャリ
「おい・・・何、鍵しめてるんだ」
「これで誰にも見られませんよ」
「いや・・・まて・・・・」
近づいてくる要に思わず後ずさる。しかし部屋の壁はすぐに背中についてしまった。
「ん・・・・ん・・・・ぷはっ・・・・ん・・・・あ・・・・・あぁ・・・・・キスだけって・・・」
深い口づけに、ねっとりと絡みつく舌。当たり前のように延ばされる手が、いつものように、足の内側へ入ってくる。
「蒼・・・可愛いです・・・俺たちラブラブに見えるそうですよ」
「やめろって、っん・・・・さ・・わるな・・・そこは・・・んっ」
「はい、やめますね。俺、研究に戻ります。続きは家でしましょう」
「え?」
あっさりと離れていく要に面食らって、そのままずるずると地面に座りこむ。
やめるって、こんな状態にしておいて?
ありえないだろ。どうしよう。いや、でも、ここは学校だし。
落ち着け。理性を取り戻せ。体をもとに戻そう。
なんども深呼吸をし、論文が閉じられたファイルの棚を眺めていると、体が落ち着いてきた。まだ火照ってはいるが、仕事に戻れそうだ。立ち上がってまた深呼吸をして、パソコンデスクへ戻った。
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夕方、家に帰る。なんとか仕事をすることで冷静さを取り戻したが、体の疼きはなくならなかった。
スマホを見る。要からのメールはまだきていない。自分で処理しようか?でも、どうせこの後、抱かれるのだ。要にばれたら恥ずかしすぎる。
「夕食できましたメール」がこんなに待ち遠しかったことはない。メールが来るとすぐに、要の家に向かった。
「いらっしゃいませ」
要の顔が近づくだけでドキリと心臓が飛び跳ねる。家に入ると、いつもより要の匂いを感じた。
「蒼?」
気づくと、リビングに向かう要の服の裾を掴んでいた。
「あ、いや、なんでもない」
慌てて離す。顔が熱い。隠すように下を向いた。
「蒼・・・」
ぐいと顔を持ち上げられキスをされると、全身がびくりと反応した。
「我慢できないですか?夕食の前にしますか?」
「え・・・はぁ・・・・はぁ」
唇を離されても思考が溶けたままで質問がよく呑み込めない。
「なんて顔・・・するんですか、あなたは」
ベッドに連れていかれて、唇をむさぼられる。服を脱がされ、少し触られただけでイってしまった。
要の腹が自分の精液で汚れているのを見ると、恥ずかしさで顔を隠した。
「蒼・・・あの後、ちゃんと仕事はできましたか?俺のことばかり考えていたんじゃないんですか?」
「バカ・・・仕事はした。さては、おまえ、わざとだな・・・・あ・・・あぁ・・・・そこ・・・ダメ」
「ああ、こんなに軟かくなって、ほしいほしいってねだってますよ」
「ひぁ・・・・ああ・・・・要・・・いれて・・・早く・・・・いれて・・・・」
「いやらしい体ですね。ほら、俺がいないと、もう生きられないでしょう?蒼、好きって言ってください。俺がいないとダメだって」
「・・・・入れて・・・・はやく」
「蒼、好きです。好きっていって」
「すき・・・だから・・・・あ・・・あぁ・・・・要、好き」
要が奥まで入ってくると、もう声を我慢することもできなくなる。ぐりぐりと一番奥をつかれて意識が飛んでいく。口から出る涎をぬぐうことすらできない。
「どこにだしてほしい?」
「なか・・・なかに・・・だしぇ・・・・・」
「はい。いいですよ・・・くっ・・・ん・・・俺も・・・・いきます」
「あぁ!」
二人で絶頂を迎える。ああ・・・ほんとうに・・・どうかしてしまった。好きなんだろうか、これが好きってことなんだろうか。
知らない間に要の背中にぎゅっとしがみついている自分が、なんだか自分じゃないみたいで、ここは本当に現実なんだろうかと思ってしまう。
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