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第7話

「すごい雨ですよ。本当に行くんですか?」 「行く。俺は行く」 「そんなに観たいんですか、黒川諸(くろかわもろ)の個展」 「観たいし、買いたいんだ、絵を一枚。あの人の絵いいだろ?抽象画っていうのかな。よくわかんないけど、輪郭がぼやけた草花、現実の草花とはまったく違う、ほわっとしたやつ。すごい好きなんだ。行こう行こうと思ってたら、今日が最終日だったから。もう後はないし」 「絵を買うっていっても、蒼、最近は自分の家にあんまりいないですよね?」 「う・・・」 いつの間にか設置された俺専用のデスク、衣類の入った箪笥、二揃ずつある食器たち。 仕事が忙しいときは、大学から要の家に直接かえってデスクに向かい、合間をぬって食事をすましてまた仕事をするという生活で、自分の家に帰らない日も多くなってきている。 そういう時は要も手を出してこないから、居心地がよくなって、気が付けば入り浸っている形だ。 「そろそろ蒼の家も掃除にいかないと。俺的には一緒に暮らしたいんですけどね」 「バカ言うな。学生の分際で。ご両親になんて俺は言えばいいんだよ」 「俺が適当に説明するから大丈夫ですよ。うちの両親、そもそも海外にいて、日本にいないですし」 「そうなのか?」 「そうですよ。領事館勤務なんで」 「おまえ、おぼっちゃまだな。そうかなとは思ってたけど」 「まあ、裕福だとは思います。俺も帰国子女ですしね」 「そうなの?」 「そうですよ」 そういえば、話すことといえば研究のことばかりだし、それ以外の要に関する情報を知らない。まあ、それが分かったところで、特に興味はわかないが。 「カッパ着てきましょうか」 「えーカッパ嫌い」 「でも、風もあるんで傘は無理だと思いますよ」 「じゃあ、タクシーでいこう」 「大人の贅沢ですね。それならカッパはなくていいかな」 個展は美術館に併設された一室でこじんまりと開かれていた。大雨警報が出ている中、訪れる客は見当たらず、蒼と要の二人だけが静かな空間にかすかな物音を作り出していた。 「んーどれにしよう。コスモス畑もいいけど、やっぱり菜の花畑か。さんざん扱ったしな、菜の花」 「向日葵(ひまわり)もありますよ?」 「向日葵はいい」 「どうしてですか?」 「なんか、強すぎてあんまり家に飾りたくない」 「そんなぁ、俺、夏の王子って呼ばれてるんですよ。夏を飾ってくださいよ」 「夏の王子?なんだそれ」 「メディアに疎いですね、蒼は。イケメン教授ランキングサイトにのってますよ。春の王子が最北大の吉沢助教授で、秋の王子が京音大の安部教授、冬の王子が広池大の静根教授ですよ。で、俺が夏の王子です。氷の女王に寄りそう夏の王子っていう設定です」 「なんだそれ、くだらない」 「誰も溶かせない氷の女王の凍った心を、灼熱の愛で夏の王子が溶かす設定ですよ。俺、結構気に入ってますけど」 「バカか。向日葵なんて絶対買わない。お前が始終うろうろして暑いのに、これ以上暑苦しくなるのはごめんだ」 「絵じゃなくて、蒼には実物の俺がいますしね」 「はあ・・・・よし、菜の花にしよう。すいません、これ買います」 「はい、じゃあ、サインしますね。えっと日付とかお名前とかご希望ありますか?」 椅子に座ってスマホをいじっていた店員がこちらを向く。 「え?サインって、あなたが?」 「あ、はい、俺が黒川諸です」 「はぁ?」 店員だとばかり思っていた若い男を見る。確かに、店員には似つかわしくない洒落た服を着ているし、薄い色付き眼鏡をかけている。 「ほら、これ、パンフと同じ人物でしょう?」 確かに、黒川諸のインタビュー記事に映っている人物と同じだ。長身にくせっけの髪、パンフよりも実物の方が男前だ。 「そうでしたか、失礼しました。でもなんで・・・」 「実は、天気の影響で今日は個展の営業は中止にしたいって美術館から連絡があったんです。人が足りないらしくて。でも、今日最終日ですし、もしかしたら誰かいらっしゃるんじゃないかと思って、自分で開けることにしたんです。幸い小さな個展ですし、美術館は開館してますから。最近やっと絵が売れるようになってきたのもあって」 「そうでしたか。俺、先生の絵が好きです。サインお願いします」 「はい、ありがとうございます。月島助教授ですよね。ネットで大人気のイケメン教授の」 「あぁ・・・お恥ずかしい」 「俺もファンです。先生の黒い髪と白い頬の輪郭がきれいで、ずっと触ってみたくって・・・」 延ばされた手を要が掴んで止めた。 「すいません。月島先生、触られるの嫌がるんで」 「音橋君でしたっけ?月島先生とコンビになっている学生さんですよね。あなたはずいぶん触ってるように思えますけど」 え?何?なんでにらみ合って止まってるの?え?え? 「あ、えっと、支払いはクレジットカード使えますか?」 蒼の声に要が手を離し、二人が距離を取る。 「銀行振り込みでお願いしてるんですけど大丈夫ですか?振り込み確認後、絵をご自宅までお送りします」 「大丈夫です。助かります。この雨なんで、どのみち持ち帰れないですし」 「では、こちらにお名前とご住所をお願いします。メールアドレスも書いていただけると、次回の個展の案内などお知らせできますので、ぜひ」 やばい、要から不のオーラが駄々洩れている。嫌な予感しかしない。 普段にこにこしてさわやかな笑顔を振りまいているだけに、機嫌を悪くした時の要の豹変ぶりは、何度くらっても慣れることができない。 しかも、こいつの機嫌の悪さはおかしな方向へ行くことを身をもって知っているだけに、家に帰るのが恐ろしい。 俺は今日、どうされてしまうのだろうか・・・・ただ絵を買っただけなのに。 🔷 「まて・・・要」 「待てません」 家に帰ると、すぐさまベッドへ連れていかれた。いつもより強引に服を脱がされていく。 「おまえ、気にしすぎだよ。黒川さん、ちょっと髪の毛触ろうとしただけだろ」 「あいつはダメです。髪以外も触りたいって顔してたでしょう?」 「気のせいだって」 「そうやって、何も気づかないから、他の男に付け込まれるんです」 「付け込まれてないだろ」 「俺が止めてなかったら、触られてましたよね?」 「それは・・・・」 確かに、まさか手が伸びてくるとは思わず、反応が遅れたから、あのままだったら触られていただろう。 「それとも、俺以外のも入れてみたいんですか?ここに」 「ひゃぁ・・・ちょ・・・・」 直接触られず周辺をまさぐられる。くすぐったい。 「悪い体だ。お仕置きが必要ですね」 そういうと、要がベッドわきの引き出しから何かを取り出した。何かと思っている一瞬の間に、両腕をしばられ、ベッドに固定される。 「何・・・・これ・・・・」 びくともしない。万歳をしたかっこうで腕の自由を失う。 「蒼・・・・俺の蒼・・・・今日はここも舐めてあげますね」 「うぁ・・・あぁ・・・んん・・・・」 乳首を吸われると声がもれた。ちゅぱちゅぱといやらしい音がこだまする。 「やめ・・・くすぐったい・・・・」 「かわいいピンク色の新芽みたいですよ、舐めるとツンと大きくなりますね」 「手・・・ほどいて」 「ダメですよ。俺の液で全身ぐちょぐちょにしてあげますから」 「やめろ・・・・」 要の舌が乳首からさらに下へ動いていく。 「や・・・やめて・・・・」 ぶちゅ、くちゅ、くちゅ。 「はぁ・・ああ・・・・ああ・・・ダメ、そこは・・・あぁん」 「ほら、ヒクヒクしてますよ。いやらしい体です。ここ、ね、あいつのも欲しいんですか?ここに?」 「バカ・・・・そんなわけないだろ・・・」 「じゃあ、何がほしいんです?」 「あぁ・・・・ん・・・・・ひゃぁ」 要の指がずぶずぶと入ってくる。一本だったのが、一気に三本。圧迫されて、意識がおかしくなってくる。 「ほら、言って、何がほしいんです?」 「かなめ・・・・かなめがほしい」 「俺だけですか?」 「かなめだけ・・・ああぁん」 「そうです。俺だけですよ。ここに入っていいのは俺だけ。ちゃんと覚えてください」 指が抜かれて、来ると思ったら、要の舌が入ってきた。入口をぺちょぺちょと舐められる。 「あぁん・・・ダメ・・・・かなめ・・・・ダメ・・・いく・・・はぁはぁ」 「まだ入れてもないのに」 「はぁはぁ・・・・まった・・・・あぁん・・・まって・・・いったばっか」 「大丈夫ですよ。蒼の体は、俺がほしくてほしくてたまらないんですから」 「あぁ!お・・・おく・・・ダメ」 「蒼、ダメじゃないでしょう。すごく気持ちよさそうですよ」 「あぁ!」 「もう2回目。さあ、今日は何回いきますか?」 やっと手の拘束がとかれる。しかし、動く気力がない。体中が要の精液でドロドロになっている。 「蒼、可愛いです。俺まみれになってる。お風呂ためてきますね」 「う・・・・」 体の中も要の精液でいっぱいだ。少し動いたらあふれたそれがシーツを汚した。怖い、要の執着が怖い。それに、こういうことに慣れてきた自分も、怖い。

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