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第9話
「はぁ・・・はぁ・・・・もう、中、無理」
「そんなこと言って、まだ欲しいって、体は言ってますよ」
「ああ・・・ん・・・はぁ・・・・」
暑い、停電していてクーラーもつかない。外はゴーゴーと風がうねっているため、窓も開けられない。汗が額から流れてくる。重なる要の体からも汗を感じる。
暑さと快感で頭がおかしくなりそうだ。もっと奥までついてほしい、もっとキスしてほしい。体の底から恥ずかしい欲望があふれ出そうになるのを必死でこらえる。
言葉にするのを我慢すると、体はもっと言うことを聞かなくなる。知らずに要に抱きついて、腰を動かしている自分がいる。
「蒼、しばらくしなかったので、欲求不満だったみたいですね。そんなにねだられたら、俺もうまったく我慢できませんよ」
「いつも・・・はぁ・・・・我慢なんて・・・あぁん・・・してないだろ」
「みてください、溶けそうです。こんなにぐちゃぐちゃで、いやらしい体ですね」
「やめろ・・・あぁあぁぁ!」
「またイキましたね。何回目ですか?俺の精液と蒼の精液で、蒼のお腹ドロドロです」
「ひゃぁ・・・ああん・・・もう、無理。抜いて」
「ダメですよ。ほら、もっと感じで。自分がどうなっているのか認識してください。五日抱かれなかったらこうなるんです。蒼の体は気持ちいいことが大好きなんですよ」
「おまえが・・・そんな体にしたんだろ!」
「そうです。論文にできないのが残念です。俺の、この成果」
「んっ」
文句を言おうとしたら口を塞がれる。再び来たキスに、さらに脳が溶けていくようだ。
体がこすれるたびに、ねちょねちょと嫌な音がたつ。どろっとした肌の感触も気持ちが悪い。それなのに離れられない。もっとしてほしい。もっと・・・
「かなめ・・・んっ・・・あぁ・・・・」
「蒼、キス好きですね。もっとしてほしい?」
うなずくと、顔が一気に熱くなる。
稲光で一瞬部屋が明るくなると、要の目が光った。
嬉しそうな笑顔の後の、鳥肌が立つような雄の顔は、まるで獲物をむさぼる獣のようだ。
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シャワーを浴びて、ベッドを綺麗にし、横になる。体がだるい。
時計を見ると、まだ昼の三時だ。真昼間から俺たちは何をしているんだか。
「まだ停電なおらないですね」
シーツを処理していた要が戻ってきた。要が布団に入ってくると、新しいシーツの冷たさがなくなり、また暖かくなった。
「台風直撃してるのか?」
「通過してる最中なのかもしれませんね」
「そんなにくっつかれたら暑い」
体を押し返そうとするがびくともしない。
「台風の日って、なんだかそわそわしませんか?」
「まぁ、わかるかも。本能的な危機感とそれに付随する興奮状態ってやつだな」
「んー何かが起こるような期待感とも言えますね」
「いいことなんておこりっこないのに、人間って不思議だな」
「いいこと、起こったじゃないですか」
「ん?何が?」
「停電で、蒼が仕事できなくなって、昼間からイチャイチャできてます」
「・・・。今時ネットワーク入れないとなぁ・・・」
「蒼、キスしてください」
「なんでそうなるんだよ」
「いいじゃないですか。他にやれることもないですし」
「・・・・」
「ね。たまには蒼からされたいです」
「・・・・仕方ないな」
「んっ・・・んっ・・・・はぁ」
「満足か?」
「じゃあ次は」
「調子にのるな」
要から体をそらして向きを変えると後ろから抱きしめられる。
力が強い。とても逃げられる気がしない。
「蒼、好きです」
「・・・うん」
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抱きしめられるぬくもりと優しさが心地よくて、そのまま二人でうとうととまどろみ、いつの間にか昼寝をしてしまった。起きると明かりがついていて、雨も止んでいた。
「蒼、起きましたか?」
「うん。今何時だ?」
「もう七時過ぎてますよ」
「そんな時間か」
「雨止んだんで、スーパー行ってきます。冷蔵庫に何もなくて」
「あぁ、俺も行くよ。んーそれか、たまには何か食べにいくか?」
「でも、蒼、外食嫌いなんじゃ・・・」
「別に嫌いじゃない。基本的に行かないだけで」
「そうなんですか?」
「うん。まぁ一人で行きたくはないけど」
「じゃあ、外食して、その後24時間営業のスーパーで買い物しましょう」
「そんなスーパーあるの?」
「ありますよ。蒼は、マンションの近くのスーパーしかいかないですもんね」
「悪かったな、酒くらいしか買わない人間で」
「お店、どこか行きたいところありますか?」
「無いよ、知らないし。要が行きたいところでいいよ。俺が金だすから遠慮なく。いつも飯作ってもらってるし」
「ほんとですか?やったぁ」
嬉しそうに笑う顔は、犬みたいで可愛い。
あの、ドキリとさせる雄の顔とは別人のようだ。
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要に連れてこられたのは、上岡駅にあるハイタワーの10階にある洒落た飲み屋だった。
台風が去ってすぐのためか、客は少なく、静かな雰囲気だ。
通されたのは個室で、窓が広くとってあり、夜景をみながら食事ができるテーブルだった。
窓の前にテーブルがあり、二人掛けのソファがおかれている。
窓には水滴がたくさんついていて、夜景ははっきりと見えなかったが、電飾が滲んで綺麗だった。
並んで座って、メニューを見る。
小エビとジュレのカクテル。ムール貝のビール煮。などなど、味の予想がつかない料理にうなる。
「魚介が多いな」
「はい、おいしいって評判です。せっかくなんで、自分で作るのが難しそうな料理頼んでいいですか?」
「うん。まかせる」
料理を注文し、最初に頼んだビールがきたので乾杯する。
暑いからビールがうまい。もう夏だな、と思う。
「っ・・・」
ビールを飲んだのもつかの間、腰に手を回されて、強引に引き寄せられてキスされる。
「外ではやめろよ」
「すいません。嬉しくて」
「にやにやするな」
「カップルぼいですよね~この席」
確かに、並んで夜景見て、キスするとか、恥ずかしいにもほどがある。
「そういえば、おまえ、研究の方はどうなんだ?今週、全然進めれてないだろ」
「あ、話題そらしましたね?もう。蒼は恥ずかしがりやなんだから」
「うるさい」
「デスクワークはまったくできませんでしたが、畑にいりびたってたんで収穫はありましたよ」
「へぇ」
「農学部の院生と知り合いになって、肥料を譲ってもらえることになったんです」
「肥料?」
「はい、藤を植え替える土壌を作ったのもあって、土壌と光合成量の関係も調べてみようかなと思いまして」
「土壌か・・・おもしろいな。空気中の二酸化炭素濃度や光の波長については研究されてるけど、土との関係は聞いたことないな」
「本当ですか。じゃあ、進めていいですか?」
「うん、やってみるといい。院生の論文は、失敗をちょっと成功したって感じで変換して書くんで十分なんだし、好きにやるのが一番いいだろ」
「やる前から失敗とか言わないでくださいよ。世紀の大発見になるかもしれませんよ。蒼より早くノーBル賞とってみせますから」
「おかしな目論見でバイオテクノロジー専攻してる分際でよく言うな。じゃあ、お前がノーBル賞とったら、俺がパートナーとしてドレス着て踊ってやるよ」
「本当ですか!蒼の女装、見たいです!わぁ、やるきが沸いてきました」
「あ、料理きた。うまそう」
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見慣れぬ料理に舌鼓を打ち、帰りに二人でスーパーへ寄って帰宅した。
ほろ酔いで、あーだこーだいいながらスーパーで買い物するのは実に楽しい初体験だった。
「そのチョコどうするんですか?」
帰ってすぐに、大量に買ったチョコエッグをかたっぱしからあける。
卵の形をしたチョコレートの中に玩具が入っている商品だが、植物ミニチュアシリーズが出ていたのだ。
「少しずつ食べるよ。袋かなんか貸して」
「蒼、他にもチョコレート買ってましたよね。あの、特設コーナーの高いやつ」
「だってうまそうだったんだもん。俺、あんなチョコみたことないよ」
「デパ地下で売ってるやつみたいですね」
「デパ地下?いったことないな」
「じゃぁ、次のデートはデパ地下探検にでもしましょうか」
「うわ、見てこれ、すごいよくできてるな、玩具なのに」
「明日は、蒼の家を掃除しないと。そういえば、そんな感じのミニチュアとか置物とかが山になってる一角ありましたね・・・」
「・・・あれは、並べているんだ」
「並んでるようには見えませんでしたよ。標本も床にだしっぱなしでしょう?」
「う・・・・」
「まぁ、そういうだらしないところも、知ってるの俺だけなんで、可愛いですけどね」
「もうやめろよ。おまえ、今日一日ニヤニヤしっぱなしで気持ち悪いぞ」
「すいません、幸せすぎて」
「まぁ・・・俺も、楽しかったけど」
「え?なんかいいました?」
「なんでもない!風呂入ってくる!」
「あーほら、ゴミはゴミ箱にいれてくださいよ」
チョコエッグのゴミをゴミ箱に捨てている要を尻目に、風呂場へ急ぐ。
悪くない。
いつかいなくなる。そう思って人と付き合うのが普通になっていた。
要は本当に離れていかないのだろうか?そんな疑問は無くならないのに、「離れないだろう」と、そう思ってしまっている自分がいる。離れていかない相手。それはなんだかくすぐったい存在で、俺の心は知らずに満たされていくようだった。
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