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第11話
「おい、朝からがっつくな」
パジャマの中に入ってくる要の手を追い払う。時計をみると朝の5時だ。まだ眠い。
「でも、ほら、俺の感じるでしょ?」
固い物がごりごりと尻を圧迫してくる。
「朝はダメだって言ってるだろ、疲れて仕事に支障がでる。だから、夜好きなだけ抱かせてやってるんだ。俺はもう一度寝る。次に起こしたら、もうお前の家では寝ないからな」
「はい・・・すいません・・・」
目が覚めると要は出た後だった。
そういえば今日は天気予報の生放送だと言っていたのを思い出す。
ダイニングに用意されたコーヒーを温めなおし、小さめのサンドイッチを食べる。
窓の外の朝日が強い。今日も暑そうだ。早朝一度起こされたせいでまだ眠かった。
よろよろと支度を済ませて、大学へ出勤した。
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「それでは、本日の関東のお天気は上岡大学の音橋君に教えてもらいたいと思います」
花柄のノースリーブからすらりとした腕を出したお天気お姉さんが、カメラの前でにっこりと笑う。
「はい、みなさん、おはようございます。音橋です。今日のお天気は、めっちゃ晴れですね」
「めっちゃ晴、なんて音橋君らしくて可愛いです」
「あは、すいません、自分らしく天気予報してくれって言われたんですけど、晴れしか言うことなくて、めっちゃ晴れになっちゃいました。
最高気温37度です。真夏日ですね。みなさん熱中症に気をつけてください。生物学科の人間としては、そろそろ雨が降って、植物たちに元気をあげたいところなんですが、雨は降らないですね。残念です」
「残念と言えば、月島先生がいないのも残念ですよ、ね、みなさん?」
「すいません、月島先生は人前に出るの嫌がってて、もともと人づきあいが苦手な人なので。でも大丈夫です。もうそろそろ、このエレベーターでこの階にあがってくるはずなので」
「月島先生捕獲作戦ですね!前回、月島先生が音橋君に捕まってバイバイするところが、大うけでしたので、みなさん、お待ちかねだと思います!」
「あ、エレベーター動きました。来ますよ~」
「ん?」
エレベーターの扉が開くと、複数の人間がいてめんくらった。大きなマイク、カメラ、要とテレビ局のスタッフを認識する。エレベーターホールの壁がガラス張りになっていて、外が見えるからといって、まさかこんな所でやっているとは。もう終わったのだろうか。
「月島先生、おはようございます」
エレベーターから出た俺に要が寄ってくる。
「あぁ、天気予報は終わったのか?」
「いえ、まだです。お花の紹介は月島先生にしてもらおうと思って」
「は?何いって・・・おい、はなせ、何してる?」
あっという間に後ろから抱きしめられて、捕まる。
「今回、ご紹介するお花はアガパンサスです。名前を聞いたことがないかもしれませんが、ほとんどの人が目にしたことがあるお花だと思います」
「こちらの写真にある紫のお花ですね」
お天気お姉さんがパネルを持ち上げる。
なんだこれは?羽交い絞めにされた状態で、何かが始まった。
カメラがこちらを向いている。いったいどういう状況なんだ?
「月島先生、アガパンサスの説明お願いします」
「は?アガパンサス?」
「ほら、早く」
「え・・・えっと、アガパンサスは暑さにも寒さにも強い。七月によくみられる花で、公園の花壇に植えられているのを見ることができる」
「花言葉はなんですか?」
「花言葉は、恋の訪れ、愛のはじまり・・・」
「今から夏休み、なんだかウキウキしちゃう花ですよね。あ、でも、みなさん、アガパンサスを探しに行くときは、水筒を忘れずに!この花を見かけたら、熱中症対策が必要な季節なんだって思い出してくださいね!以上、音橋と月島先生の天気予報でした」
「とっても素敵な天気予報ありがとうございました。来週の金曜日は京音大学の安部教授のイケメン天気予報です。みなさんお楽しみに!」
「さようなら~ほら、先生も、手を振ってくださいね」
「う・・・・」
結局前回同様、要に羽交い絞めにされ、手をからませてのバイバイとなった。
「おまえ!最初から、俺を捕まえるつもりだったな!」
カットの声がかかると、スタッフがいるのも構わずに、要に怒りをぶつけた。
どうりであっさり、学部長から声がかからなくなったわけだ。
「すいません。でも学部長命令ですので」
「あのおやじ!おい、なんでお前はにやにや笑ってるんだ!俺は、怒ってるんだぞ!」
「怒った顔も可愛いですよ。別にいいじゃないですか、少しくらい、減るもんじゃないですし」
「まったく反省してないじゃないか!」
「要君!すごくかっこよかったよ!高校生の時よりも大人になって、イケメン度合いが増してるよ~」
誰だ?化粧をバッチリした女性が親しげに要に話しかけてくる。
天気予報を一緒にやっていた女性だ。テレビ局の人間か?
いや、高校生の時って言ってなかったか?
「愛さん、あんな感じでよかったですかね?」
「うんうん。すごくよかったと思う。ね、今の連絡先教えて、今度ご飯でも一緒にいこう」
なんだこれは・・・。俺を無視して何かがまた始まっている。
気分が悪い。朝から起こされるわ、テレビに無理やり出されるわ、知らない女が目の前で要に笑顔を振り向いているわ・・・・。
俺は仕事をしにきたんだ。いい加減うんざりだ。
「あ、月島先生!待ってくださいよ!」
引き留める要を無視して、俺は足早に研究室へ向かった。
エレベーターホールから出るときに、スタッフが小声で話しているのが耳に入る。
「愛さん、音橋君の高校の先輩で、付き合ってたんだって、さっき自慢してたよ~」
「どうりで、顔合わせから仲良さそうだったわけだ」
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「先生、漢字間違ってます」
「ん?ああ、すまない」
慌てて黒板を書き直す。ダメだ、集中できない。
今朝、うっかり聞いてしまった話が頭から離れない。
要と付き合っていた?それは、もちろんそういう人もいるだろう。俺だっているわけだし。
でも、あんな品のない顔だけみたいな女性だとは思わなかった。俺とはまったく違うじゃないか。いや、待て待て、俺はなんで自分とあの女を比べているんだ?要が誰と付き合おうがしったこっちゃないはずだ。
余計なことは考えるな、今は講義に集中だ。こんな理由でミスなんてかっこわるすぎるだろ。どうせ、今夜も抱かれるのは俺なんだし・・・。
夕飯にはちょっと高いワインをあけるとしよう。
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講義を終えて、教職員用の食堂で昼を済まし、研究室に戻る。静かだ。
今日はゼミもないし、要は午後バイトだと言っていた。
学部生の時に予備校で講師のバイトをしていたらしい。
院にあがってからはバイトは辞めたそうだが、時々ヘルプで呼ばれることがあって、今までも二回ほど、早く帰宅したことがあった。
それでも夕飯は俺と一緒に食べたいといって、少し遅くなるが夕方には返ってくる。たまにくらい、作らなくてもいいのに。
そうだ、今日は外食にするか。あいつがバイト終わったら、そのまま食べにいけばいい。明日は土曜日だしちょうどいい。要に連絡しようと思ってスマホを取り出すと、要からメッセージが届いていた。
「すいません、今日は夕食一緒に食べれそうにないです」
「え?」
要からのメッセージを二度見する。夜もバイトが入ったのか?
それとも・・・・あの愛って人と食事に?そういえば、ご飯食べようみたいな話をしていた気がする。
「なんで?」メッセージを打とうとして消す。これじゃまるで、恋人みたいだ。
要が夕飯を作るから食べてるだけで、別に毎日一緒に食べようとか約束しているわけじゃない。それに、こんなメッセージ送ったら、なんだか俺が一緒にご飯食べたいみたいになるじゃないか。
落ち着け。まあいい、どうせ、夜帰ってきてから、「一緒に寝ましょう。朝ごはんはうちで食べるんですから」と言って、俺を拉致しにくるはずだ。今までも何度かあった。
学生たちの飲み会に要が参加した日は、少し酔った要が家まで俺を拉致しにきて、結局一緒に寝た。酔った要は、理性を保ちづらくなるのか、夜がいつもより激しくなる。今夜はまた腰が痛くなりそうだ。
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その夜。
時計を見る、深夜1時。おかしい。要が来ない。メッセージもあれからこない。
「はぁ・・・・」
ふざけるな。さんざん人のこと犯しておいて、前の女があらわれたらもうそっち?
いや、でも、俺から離れるってことはないよな。さすがに飽きるならとっくの昔に飽きてるだろうし、あの研究対象への情熱は本物だと思う。
んー、でも、浮気はしないとは言ってないよな・・・・。
俺は研究対象なわけで、よそで女性を抱いていても、要にとってはなんの問題もないし、俺にとってもなんの問題もないわけで・・・・。
でも、なんだかモヤモヤする。なぜだろう?考えすぎて、わけがわからなくなってきた。
あいつ、本当に、あの人とベッドにいるんだろうか・・・・。
胸の奥だけ重力が倍になったような感覚に襲われる。なんだろう、気持ちが悪いな。
あの大きな手で、女性の胸をもんでいるのか?
俺にするみたいに、あの長い指を女性の穴に入れているのか?
なんだ、これ、苦しい。胸の奥がつぶれそうだ。気持ちが悪い。
ベッドから立ち上がり、家を出る。気づくとエレベーターに乗って、7階のボタンを押していた。いてくれ。疲れて眠ってしまったとか、明日の朝起こしにくるつもりだったとか、まだレポート書いてるとか。きっと、そんなんだ。
ピンポン・・・・・
ドンドン・・・・
くそっ、なんでいないんだよ。もう1時過ぎてるだろ。終電だって、もうないだろ・・・・。俺が好きだって何度も言ってただろ・・・・バカだ、要もバカだが、俺もバカだ。
うなだれてドアに額をつけると、鉄の扉がひんやりと体を冷やした。
今は、冷たさなんて求めていないのに・・・
「蒼?」
「かなめ?」
「どうしたんです。蒼・・・そんな顔して・・・目、濡れてる」
「な、泣いてなんかない!おまえ、どこいってたんだよ。愛って人と一緒にいたのか?」
「え?愛さん?違いますよ。学部長が今日はごちそうしてくれたんです」
「は?健兄が?」
「中はいりましょう。もう遅いですし」
家の中にはいると、ポスっと電池がきれたようにベッドに倒れこむ。
なんだ、健兄と一緒にいたのか。
「学部長とあと、広報の人もいましたよ。俺が天気予報に出たご褒美だそうです。蒼のことは、ほっとけ、って言ってました。なかなか帰してもらえなくて、終電無くなったんで、歩いて帰ってきたんです。歩ける距離だったので。一緒にタクシーにのったら三件目連れていかれそうだったし」
うつ伏せでベッドに倒れこんでいる俺の上に要がかぶさってくる。
「蒼・・・心配してたんですか?俺が愛さんと一緒にいるんじゃないかって」
「・・・・あの人、おまえの元彼なんだろ?スタッフの人が噂してたぞ」
「あぁ・・・3か月くらいかな、お付き合いしましたよ。高校1年の時ですね。愛さんは三年で、断ったらめんどくさそうだったので」
「俺が黒川さんと連絡先交換したらあんなに怒ったのに、自分はちゃっかり連絡先交換するんだな」
「交換してませんよ。お天気お姉さんとコネ作っても役に立たなそうですし。プロデューサーの方とは交換しましたけど」
「そうなのか?」
枕につっぷしていた顔をあげると、うっかり要と目があってしまった。
「蒼・・・そんなに煽らないでください」
「俺は、煽ってなんかない」
「やきもちやいて、涙目でドアの前にいて・・・・可愛すぎますよ」
「妬いてなんか・・・ん・・・」
続きは濃厚なキスで消される。
「おまえ、酒臭いぞ」
「はい、結構飲まされたんで、酔ってます。蒼、すいません、今日は、あんまり優しくできないかも」
「ちょ・・・まった・・・・っん・・・強く触るな」
強引に服を脱がされて乳首を舐められると、体がびくっと反り返る。
「そこばっかり・・・やめ・・・て」
「蒼・・・はぁ・・・はぁ・・・・好きです」
力づくで押さえつけられて身動きができない。その間に、要の舌が全身を舐めていく。
「ああ・・ああ・・あぁ・・・かなめぇ・・・そこ・・・だめ」
「ヒクヒクして、可愛いですよ。俺が欲しい欲しいってねだってます」
「ひゃぁ・・・あぁん・・・はぁ・・・・」
要の舌が入ってくる。それだけで俺はイってしまう。
「蒼はローションいらずですよね。ほら、このねっとりした液で、しっとりできますから」
自分の精液を穴に塗りたくられて、いやらしい声がでる。
要の指が入ってくると、全身がうずいた。もっと、もっと、してほしい。
「蒼、俺にダメって言ってください。愛さんと会わないでってお願いしてください」
「何いって・・・」
「ほら、お願いして・・・浮気しないでって、俺だけ抱いてって」
「ひゃぁ・・・ああん・・・ふさぐのやめて・・・」
先を塞がれて、イキたいのにイケない。
「蒼・・・ほら・・・お願いして・・・」
「お願い・・・浮気・・・しないで・・・」
「そう、いい子です。続けて」
「俺だけ・・・抱いて・・・ああああ!」
パンパンパン。急に激しく動かれて、脳内がパニックになる。快感が次から次へと押し寄せる。うつ伏せから仰向きへ向きをかえられ、足を無理やり大きく広げられる。要のいつもより大きくなったそれが、下から勢いよく奥へと突き上げられる。
「ひゃああああ!」
パンパンパン、パンパンパン。
喘ぎすぎて口から涎がでてくる。それでも口を閉じることができない。
「ほら、蒼のお願い通り、抱いてますよ」
「かなめ・・・ああん」
「もっとですよね?」
「う・・・・うん・・・もっと・・・・ああああん」
それからいつも通り数えきれない絶頂を迎えた。
「はぁはぁ・・・・死ぬ・・・」
「あ、これ、渡しておきますね」
「ん?カードキー?」
「俺の家のスペアキーは母さんに渡してしまったので、三枚目を新しく作ってもらったんです。セキュリティがしっかりしてるので、新しく鍵を作ると一か月以上かかるみたいで、遅くなってすいません。これで、ドアの外で待たなくても大丈夫ですよ。次からは家の中で俺のこと待っててくださいね」
「誰が待つか・・・まあ、もらっておくけど」
カードキーか。考えたことなかったが、俺の家にはズカズカ入ってくるんだから、俺だってこいつの家に入る権利は確かにあるよな・・・。
合鍵か・・・・そう考えるとなんだか心拍数が上がるきがした。
「シャワー入ってきますから、蒼は一旦休んでください」
「え?一旦?」
「明日は土曜日ですし、ちょっと強引に抱いてしまったので、次はゆっくり味わいますね♡」
「え?え?無理・・・もう無理・・・・」
俺の額にチュッと軽くキスをして、要は満面の笑みで浴室へいってしまった。
怖い、怖い、俺は今夜どうなってしまうんだろうか・・・
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