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第12話
「蒼、これプレゼントです」
「ん?ピアス?」
「はい。休みの日にたまにつけてますよね、ピアス」
「高校の時に開けて、穴を潰すのも嫌だしと思って、たまにつけるな」
「これ、俺と色違いなんです。チアパム行ったら、寝るとき以外は毎日つけてください」
しゅんと肩を落とした要からピアスを受け取る。俺のは黒いリングで、要のは金色のリングだ。まあ、大学で働くわけじゃないし、これくらいはいいだろう。
チアパム視察を控えたこの一週間、こういうくだりが続いている・・・。
朝ごはんはちゃんと食べるように。暑くても布団を蹴り飛ばさないように。同行する吉沢助教授と仲良くするように。一人で勝手に出歩かないように。
こいつは俺の母親にでもなったつもりなんだろうか。いいかげん、さっさと出発したい。
「あと、俺の声をスマホのボイスメモに入れておきましたから、夜に一人で処理する時は、聞きながらしてくださいね。その方が気持ちよくいけると思いますから」
「誰がするか!」
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やっと旅立ちの日が来た。夏休みのせいか、空港は旅行客で賑わっている。
「月島先生、ピアス毎日つけてくださいね」
「わかったから、もう行くぞ」
近づいてくる要の手を振り払う。いいかげん、うっとおしい。
「ほんとに、ラブラブですね。空港まで見送りにくるなんて」
隣に吉沢助教授がいるというのに、さっきから要の俺に対する距離感は家にいる時と変わらない。見送りはいらないって言ったのに、ちゃっかり付いてきた要に深いため息をつく。
「吉沢先生、月島先生をよろしくお願いします」
「うんうん、どちらかというと僕がお願いされる感じだけどね。いってきます」
「じゃぁな」
とりあえず、飛行機が無事に飛んだら寝たい。
朝まで抱きやがって、三週間分なんてありえないだろう。
「可愛いじゃないですか、音橋君。うふふ」
思ってたのと違う。ふんわり笑う吉沢助教授は、どちらかというとなよっとしていて、治安も設備も悪いチアパムでの生活に耐えられるのか不安だ。
最北大の吉沢華樹 助教授には今回、現地の子ども支援のために随行してもらった。自生する蜜菜 を食べて生き残る手段を得た子ども達。その次のステップは、教育をどうしていくかだ。
俺がターゲットにしている子ども達は、大人の支援を受けることができない環境にいる子ども達だ。今までの発展途上国支援は、校舎を建てたり、教師を派遣することだったが、そういった支援はまともな親がいる子ども達しか受けられないのが現状だ。
俺はさらにその下、明日の命もつながらない子ども達を視野にいれている。吉沢助教授は、その現状を自分の目で見たいと、随行を快諾してくれた。
「わかるなぁ、好きな人となかなか会えないのって、心も体も辛いですよね」
「はぁ・・・・」
眠りたいのに、さっきから何かと話しかけてくる。
「月島先生、飴なめます?」
「いや・・・いいです」
「この飴ね、大学の近所で売られてるんですけど、飴なのにサクッとした触感がたまらなくおいしいんですよ。はい、どうぞ」
「・・・・どうも」
いらないって言ってるのに、なんなんだ。確かにおいしいけど。
「あ、飛行機が動き出しましたね。いやードキドキしちゃうな。乗り換え2回ですよね?20時間の旅、始まりですね!」
こんなテンションの人と三週間も一緒にいなければならないのか・・・。
イケメン助教授・春の王子とはよく言ったものだ、隣から漂うふわふわもふもふした空気が、いたたまれない。
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「やっと着いた・・・・」
長かった。いつも以上に長かった、この人のせいで・・・。
隣に立つ吉沢助教授を盗み見るが、彼は案外元気なようだ。
「夜九時でも、まだ明るいですね」
「日が沈むのが遅いんですよ。まずは荷物取って、出口へ行きましょう。すぐ近くのホテルを予約してあるので、今日はそこで一泊です。」
「は~い」
トランクを受け取り、タクシーでホテルまで移動する。
もう何回も来ているので、コーディネーターと落ち合うのは明日の朝からにした。あとはチェックインをすまして、ホテルで休むだけだ。
「吉沢先生、パスポート貸してください。チェックインに必要なんで」
「あ、はい。・・・えっと・・・・あれ・・・・・あれ・・・・・」
「どうしました?」
「あの、小さいバックが無いんです。トランクの上に乗せておいたんですけど」
「は?」
「ホテルに入る時は、肩から下げてたんであったはずです。どうしましょう、あれにお金とか、大切なもの全部入ってるんですけど・・・」
「どうして体から離したんですか?金銭入ってるバッグは常に体から離さないようにと言ったじゃないですか」
「すいません・・・・ホテルに入ったら、もういいかなと思って」
「ここは、チアパムですよ!」
ありえない、くったくたなのに。領事館に電話して繋がるだろうか。緊急連絡先があったかな。仕方なく対策を取ろうとスマホを取り出していると、外からパンパンパンと音がする。発砲か?こんな時に。それと同時に、男がホテル内に走りこんできた。
「あ、あれ、僕のバッグです!」
「え?」
吉沢が指さしているのは走りこんできた男が抱えているバッグだ。どうしようかとあっけにとられていると、また別の男がホテルに走りこんできて、先ほどの男と乱闘になった。手に拳銃をもっている。さきほど発砲したのはこいつだろうか。殴り倒された男がバッグを離したすきに、後から来た男がそのバックを取った。
「啓 君!」
横を見ると、さっきまで涙目だった吉沢が、キラキラした目をして拳銃を持っている男を見ている。よく見れば、拳銃を持っている男は日本人だった。
「これ、華 のだろ?」
啓君と呼ばれた男がこっちを向いた隙に、殴られて倒れていた男が外へ逃げたした。
「念のため迎えにいったんだが、もう出たあとだったから追いかけてきたんだ。華のことだから、すぐまた盗まれるんじゃないかと思って」
「啓君、ありがとう♡」
吉沢が啓君と呼ばれた男に抱き着く。いったい何が起きているんだ?誰たこの男は?
「あ、月島先生、この人、僕の彼氏で、国分寺啓介 君です」
「は・・・はぁ・・・」
「初めまして。私、こういうものです」
何やら警察手帳のようなものを見せられる。
国際刑事警察機構・・・・何度読んでもそう見える。
「啓君はインターポールなんですよ。僕たちの出会いはヨーロッパで~」
「今はその話はいいだろ。疲れてるだろうから、早く休め。俺は仕事があるから、またな。しばらくはこの国にいるから、何かあったら呼べよ」
「え~もういっちゃうの?」
「お前も仕事で来てるんだろ。夏の休暇、お前に合わせてとってあるから、日本でたっぷりしてやるよ」
「ちょっと・・・恥ずかしいよ」
目の前で繰り広げられる濃厚なキスシーンに唖然とする。
いやほんと、思ってたのと違う。
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吉沢助教授は少々抜けているが、仕事の能力は高かった。
空港近くのホテルに一泊した次の日、現地コーディネーターと共に、拠点にしている村へ移動した。吉沢助教授と俺は、片言のチアパム語を使って、野山をうろうろしている子ども達と一緒に行動を始めた。
俺は主に畑から飛び出し自生を始めた蜜菜の分布状況と生体変化を調べていく。
吉沢助教授は粘り強く子供たちを観察している。
一週間もたつと、吉沢助教授は子供たちから大人気となった。
野花で冠や指輪を作ったり、泥で団子を作ったりから初めて、今は簡単に火をおこす方法を子供たちと探っているらしい。
村での拠点は、最初に蜜菜を作り始めたチアパムの企業が建ててくれた木製の簡単な一軒家だ。ドアは布で塞がれているだけだし、窓にガラスはない。とても安全とは言えないが、現地のコーディネーターとガードマン、NPO法人のスタッフ、国際農業機構から派遣されてきた人達も合流してそこそこの人数になっており、まあなんとかなっている。
「どうですか?子供たちのとの生活は」
拠点の家で粗末な夕食を取る。辛い香辛料を入れれば、それなりにおいしくは食べられる。
主に豆でできた何かだ・・・・。
「悩ましいところですね。本来は教師のような人間を常駐させて教育を施していきたいところですが、月島先生のやろうとしていることにそぐわないですしね」
「はい。従来のやり方とは違う支援を考えていますから」
「普通、年少の子ども達の支援が最優先なんですが、今回は年長の子の支援を最優先にしていくといいかなと思ってます」
「というと?」
「子供の遊びって、年長の子から下の子へ受け継がれていくんです。だから、おにごっこも、かくれんぼも世界からはなくならない。なので、生活に必要な知識をまずは年長の子に教えていく。それも、下の子が見て覚えられるような内容に絞っていく。というのをやってみようかと」
「なるほど。それで火おこしですか」
「ええ。火が使えるとできることが増えますしね。蜜菜は油分がおおいので、乾燥させるといい燃料になると思います。他にも使えそうな植物があれば教えてもらえると使えるかもしれません」
「わかりました。家を作る材料になっている植物や、薬になりそうな植物もいくつか採取しておきます」
「さすがですね。薬なんて、売ったらお金になるんじゃないですか?」
「お金になるものはダメなんですよ。お金になってしまうと、大人が入って横取りし始めますから。蜜菜も高価な食材にならないものとして開発しました。大人が横取りせず、自生して、すぐに食べられる植物が必要だったんです」
「なるほど、そういうことですか。チアパムの企業ともめているのもそのせいですか?」
「ええ、想定内ですけどね。蜜菜だって、そもそもしっかり囲って手入れをすれば独占してそこそこの利益は出たはずです。自生を始めたのは企業の責任なんですけどね。自生するようになったら商品価値は落ちますから、企業がクレームをつけてきてるんです。風土的に一年中丹精込めて植物を育てるなんて無理なのはわかっていたので、俺としては狙い通りです」
「でも、どうするんですか?訴えられたりしたら困るのでは?」
「次の策に進んでますのでご心配なく。乾燥に強いトマトの品種を売る予定です。雨が少ない土地故に日本で育てるよりもさらに甘く育つはずなんで、蜜菜より商品価値は高いはずです」
「ああ、それで丸金の社員の方が、手前の大きな町に滞在してるんですね」
「そうです。商談は、企業に任せてあります。その品種の権利については、俺は放棄してますから」
「お金儲けはしないんですね。月島先生らしいです。でも、どうして子ども達のことをそこまで気にかけるんですか?一週間一緒に過ごしてみて、失礼かもしれませんが、月島先生は子供好きってわけではないなと思って」
「それは・・・まぁ、俺が野山に育てられたからですね。両親とは離れて生活していたもので。」
「そうでしたか。すいません、言いにくいことをお聞きしましたね」
「いや、別に構いませんよ。昔のことですし」
「あ、それでふらっといなくなっちゃうんですね。今日も怒ってましたよ、コーディネーターさん。毎年こうだって」
「すいません。夢中になると周りが見えなくなって、時間も忘れてしまって・・・・。でも、毎回よく俺の場所がわかりますよね。いつも夜になると迎えに来ていただいて、ありがたいです」
「ああ、それは・・・・ん?啓君!」
布が垂れているだけの入り口から誰か入ってきたと思ったら、国分寺啓介だった。まさか、こんな所にやってくるなんて。
「よお。少し焼けたな」
「どうしたの?」
「明後日、チアパムから移動するから、その前に来たんだ」
「そっか。啓君は忙しいもんね」
「お前、一応個室なんだろ?俺もそこに泊っても大丈夫だよな?」
「えっと、月島先生、いいですかね?」
「いいと思いますよ。一応コーディネーターに伝えた方がいいとは思いますけど」
「ありがとうございます。啓君もなんか食べる?」
「おう」
「俺は先に戻りますね」
カップルのイチャイチャに巻き込まれるのはごめんなので、そうそうに共同ダイニングを立ち去って、自室へ戻ることにした。
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教授陣はダイニングを挟んで西側の二部屋を使っている。
ダイニングの東には個室が二つと大部屋がり、スタッフはそちらを使っている。
だから、この喘ぎ声を聞いているのは俺だけだ。
「ああん・・・・啓君・・・好き・・・ひゃぁ・・・・ああん・・・」
隣から、もう一時間ほど聞こえ続けている。まったく眠れない。
こんな薄い壁で防音なんてあるわけないんだから、自重してほしいものだ。
電力不足のため、消灯時間を過ぎたら大きな明かりをともすわけにもいかない。
暇でスマホを見る。要からの連絡は朝のメッセージだけだ。この一週間、電話もない。
あれだけ寂しそうにしていたのに、毎朝「おはようございます。体に気を付けてくださいね」という簡単なメッセージが送られてくる以外は、何もなかった。
あいつは本当に俺が好きなんだろうか?そういえば、ボイスメモってどうやって聞くんだろうか。イヤホンをつけて、それらしきものを試してみると、要の声が聞こえてきた。
「蒼・・・・俺の蒼・・・・好きですよ・・・・ほら、俺がほしいでしょう?」
とっさにイヤホンを取る。これは・・・これは・・・している最中の要の声だ。なんていうものを録音したんだ。顔が紅潮するのがわかる。隣から喘ぎ声が聞こえている状況で、あんなものを聞かされたら、だれだって反応するだろう。固くなってしまったそれに戸惑う。どうしようか。自分でするしかないか・・・。もう一度イヤホンをつけて、ボイスメモを流す。
「っん・・・はぁ・・・」
前だけ触ってもなかなかいけず、おそるおそる自分の指を入れてみる。びくっと体がそりあがる。こっちの快感もないと、もう満足できないらしい。
「かなめ・・・・」
なんとか処理はできたが、物足りなさが残った。自分の細い指では要の代わりにはならない。気づけば、隣からの喘ぎ声はなくなっていた。俺も寝よう。まだ旅程は二週間もある。
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それから二週間、視察は順調に進んだ。隣国のアグーラでは会議ばかりでまいったが、蜜菜を育てられそうな地域の検討がついたのは幸いだった。
アグーラ以外の周辺の国々からも関心が寄せられているらしい。それに対応するとなると、しばらく大学を休む必要があるかもしれない。帰ったら学部長と相談が必要だ。要にはなんと話そうか・・・まあ、あいつは俺の研究には理解があるし、なんとかなるだろう。
俺は、現地の珍しい調味料を土産に、帰国の途へついた。
帰国すると、要が空港まで迎えにきてくれた。荷物があるので、出迎えは助かる。
土産に買った調味料を要は面白いと言って受け取ってくれた。誰かに土産なんて初めて買ったので、内心不安だったが、俺からもらえるのなら要は何だって喜ぶのかもしれない。
「ん・・・・ぷはっ・・・息が・・・・んんっ、まって、かなめ・・・」
家に帰ると、すぐにベッドに連れていかれた。時差ぼけでぼんやりしているのに加えて、体の快感がたまらなくて、脳が溶けそうだ。まだ、入れられていないのに、キスだけでイキそうになる。下半身がうずいてしょうがない。三週間ぶりだからだろうか、要の広い胸板とがっしりした肩が愛おしく、手をまわすと安堵と同時にどうしようもない胸の高鳴りを感じてしまう。
「おい、焦らすな」
さっきからキスと体を撫でまわされる行為が続いている。
「仕方ないですね」
「っひ・・・・っん・・・ああぁ・・・」
やっときた快感に体全体がしびれる。気持ちがいい。奥をつかれると、声が止まらない。要の背中にぎゅっとしがみつく。またキスをされて、息が苦しい。
「っんん・・・・はぁ・・・・ああん」
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どろどろになった体をシャワーで流す。要はさきに済まして、遅めの夕飯の支度をしてくれている。熱い湯にうたれながら、そういえば、空港で要と吉沢助教授が仲良さそうだったな、と思い出す。
「うまく見れた?」
吉沢が何か黒い袋に入ったものを要に渡しながら言う。
「はい、衛星使ってるんで、途切れることもなかったですし、ソーラーパネル付きはかなりいいですね。こんなものがあるなんて、すごいです。お勧めを買って正解でした」
「部屋の窓が大きかったから、設置しやすかったのもよかったかも。あ、あとGPSほんとに役に立ったよ」
「それならよかったです」
あの会話はなんだったのだろうか。最寄りの駅までのバスを手配していたので、その時はあまり気に留めていなかった。だが、よくよく考ていると、一つのよからぬ結論に達し、鳥肌が立った。
シャワーをすまして、リビングにいくと、デスクで要が何かしていた。そっとのぞき込むと、パソコンの画面に俺が映っている。
「なんだこれは?」
「あ、シャワー終わったんですね」
要が慌てて動画を閉じる。
「それ、チアパムの部屋だろ、おまえ、俺を盗撮してたのか?」
「えーと・・・・」
「吉沢先生と何はなしてた?GPSってなんだよ。俺を監視してたのか?あっ!ピアスだろ、あの黒いピアスに仕込んだんだな!どうりで、夜になると吉沢先生が俺を迎えにくるわけだ」
「それは蒼が悪いんですよ。毎年、ふらっといなくなるから、今年はなんとかしろってコーディネーターから学部長にクレームがきたみたいで愚痴を聞かされて・・・ちょうどGPS付きのピアスを注文してあったので、吉沢先生から連絡がきたら、蒼の位置を教えてあげたんです」
「ちょうどってなんだよ。チアパム視察のためだろ?」
「えっと・・・」
「なに?え?普通にGPS仕込もうとしてたってこと?チアパム関係無しに?」
「まぁ、そうです」
「何が、まぁそうです、だよ。やってること犯罪だろ」
「でも、俺、嬉しかったですよ」
「何が?」
「蒼が、俺のボイスメモ聞きながら、俺の名前呼びながら・・・」
「言うな!バカ!死ね!」
「そんなにおこらないでくださいよ。カメラは、吉沢先生の提案ですよ。家に仕掛けてあるらしくって、薦められたんです。吉沢先生は見られる側らしいですけど。見られてるってのも快感らしいですよ」
「俺は快感じゃない。てか、なんで吉沢先生と仲良しなんだよ」
「それは、イケメン天気予報をきっかけに仲良くなりました。学部長が撮影について交流する場があるといいって、ビデオ会議を設けてくださって、そこで知り合いました。俺たち芸能人じゃないしってことで。吉沢先生、彼氏との恋話をする相手がずっとほしかったみたいで、会議の後、俺に個人的に連絡くれたんです。吉沢先生は、俺と蒼のやり取りをパフォーマンスじゃなくて本気で付き合ってるからだと思ったみたいですね」
「あの人、ちょっと天然だけど、人間を観察することについては一流だからな・・・子ども達ともすぐに仲良くなってたし。でも家に監視カメラって、変態だろ。おまえ・・・俺の家にはつけるなよ」
「どうしてダメなんですか?」
「どうしてって、俺にだってプライバシーってものがある」
「俺に対して蒼にプライバシーなんて無いですよ。もう、一人で処理してるのもみたし、蒼でさえみない蒼を俺は毎日見てます」
「開き直るなよ。なんだその、もうこの話はする必要ないでしょみたいな、めんどくさそうな顔は」
「だって、何の問題もないじゃないですか。GPSもカメラも。俺と蒼の間では当たり前なことです」
「いつからストーカー行為が当たり前になったんだよ」
「五年以上前からです。それとも、何か問題があるんですか?家で俺にみられたくないことしてるんですか?俺に知られたくない場所にいってるんですか?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあ、何の問題もないはずです」
「いや・・・・だって・・・・問題だろ・・・」
「問題ないです。ご飯にしましょう。さめちゃいますし」
何も・・・・何も言い返せない・・・。
感覚的に大問題だと思うものの、じゃあ何が問題なのか?って聞かれたら、返す言葉が見つからない。
仕方なくダイニングにつく。久しぶりの和食がうまい。にこにこしながら目の前で食事をする要を見る。ああ、俺は、もう逃げられないのだ。こいつの恐ろしいほど深い愛から。言い訳さえ見つからないほどに。
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