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第6話
停車駅を伝えるアナウンスが聞こえる。
電車の扉が開くと、
人の波が一斉に出口の方に向かい、
その勢いに乗って身体が押し出された。
ようやく外の空気が吸えると思ったのも
束の間。
吐き出されたのはぶつかりあう客同士の怒号と、電車の底から噴き出される、何かのガス。
「休まらねぇ…」
こうして孝之の一日が、始まった。
*
今日は1日がとても短く感じた。
4月になるといつも新入社員の歓迎会で
盛り上がるはずだが、
生憎今年は所属部署に入ってこなかった。
いつもと変わらない、
この時期特有の忙しさにただ追われていった。
ようやく家路につくと、
時計は既に0時を回っていた。
着替える気力もなく、
スーツのままベッドに仰向けに飛び込む。
目を閉じて一度大きく深呼吸すると、
あっという間に眠りの渦に
飲み込まれていった。
瞼がほんのりと明るく、暖かい。
ああ、この感覚は知ってる。
陽の光に照らされてるんだな。
ゆっくりと目を開けると、
昨日と同じ青白い空が一面に広がっていた。
身体を起こし後ろを振り返ると、
確かにそこに、
昨日見た大きな桜の木があった。
木の根元に目をやると、
例の女の姿はなかった。
今日は、来ていないのか。
1つため息を吐き、
もう一度芝生の上に仰向けに寝そべった。
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