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第8話

そう大きくはない相手の声は、 なぜだかすぐ近くで聞いているように、はっきりと聞こえてきた。 「…羽根がないじゃねえか」 女はうんうんと、嬉しそうに頷いている。 夢の中の会話だ、突拍子もない。 「俺のことを知っているのか?」 そう問いかけると、女はまたうんうんと頷いている。 俺のことを知っている? 俺は、こんな外国人の知り合いはいないぞ。 日本語はとても流暢だ。 その前に、天使ってなんだ? 再び木の上に目をやると、 女が口を開きかけ、何かを言おうとしている。 それを聞き取ろうと身体を前屈みにしたところで、 目が覚めた。 「…4時…」 目覚ましのアラーム音が鳴るより早く、目が覚めてしまった。 ゆっくりと身体を起こすと、昨日着たスーツのままだったことを思い出した。 「くそ、パックするの忘れた」 寝る前に顔のパックをするのが、孝之の日課だった。     

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