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第10話

* 「殿上、俺はとうとう天使が出てくるようなファンタジックな夢を見るほど乙女になってしまったようだ」 「君の口から何を聞かされても、もう驚かないよ」 風の強い日だった。 遅めの昼休みを迎えた社員食堂で、 窓際の陽の光が入る席に、男2人。 周りにはほとんど人の影がなかった。 「身も心も乙女になった記念に、コーヒーを奢ってあげよう」 「キャラメルマキアートが良い」 「そんな洒落た飲み物、うちの社食にはないでしょ」 同僚の|殿上祐樹《とのうえゆうき》は、 入社以来同じ部署に勤める同期であり、 数少ない孝之の理解者でもある。 何事をも否定せず、 あるがままを受け入れる寛大さが人の心を掴むものの、 内情はどうしようもない女好きで、 酒好きの色男。 どうしようもないよね、と言いながら、 いつもいつも、 互いの”性癖”について慰め合っている始末で、 結局は縁を切れない相手でもある。 殿上が紙カップに並々と注いだブラックコーヒーを2つ、 トレーに乗せて戻ってきた。 大量のミルクポーションが、 トレーの傍らに置かれる。 これを全部入れれば それらしくなるんじゃない、 と投げやりに言い放った。     

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