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第11話

「で、その天使ちゃん。どんな感じ?見た目は?」 「髪が明るい茶色で、目は青かった」 「外国人てこと?可愛い?」 「可愛い…よく、覚えてないな」 ええ、と殿上が目を丸くした。 掛けている丸フチのメガネが、鼻の根元からずり落ちる。 「大事なとこでしょう。おっぱいは?大きい?」 「おっぱい…おっぱい?」 「信じられない。それも覚えてないの?」 そういえば、体つきはどんなだっただろう。 確かに腕に抱きとめたはずなのに。 顔は?どんな顔立ちだった? 3回も会ったのに、何故だかはっきりとは思い出せない。 「まあでも3日連続会ったんだから、きっと今日も会えるよ。そしたら今度こそチェックしてきてよ」 「何を。」 「顔と、おっぱい。あと出来れば、下の毛も薄茶色かどうか…」 「下衆野郎。相手は天使様だぞ」 「俺はファンタジーに、リアリティを求めるタイプだから」 そう言いながらコーヒーを啜る殿上の丸フチの眼鏡は、湯気で曇っていた。 「俺はお前と違って、乙女なんだ」 「そうだったね」 今夜も、会えるんだろうか。 なぜこんな夢を見ているのか分からない。 これが自分で作り出している幻想だとしたら、 いつ終わるか分からないようなものに、 何を期待しているんだろう。 窓の外を見ると、オフィスビルの屋上に刺さる 広告の垂れ幕が小刻みにはためいている。 そうだ。 こんな風に、風の強い所で、いつも出会う。 ここに木や花があれば、あの時みたいに幻想的な光景を目にすることが出来るのに。 「…ここには、何もないんだな」 コーヒーの香りを漂わせながら、 目の前に拡がる無数のオフィスビルの塊をじっと眺めていた。

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