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第13話
”天使の”掌は、とても温かく、柔らかかった。
肌の色が白いからか、掌は薄桃色に血色良く色づいていた。
その温かさにすっかり酔いしれていると、
今度は掌を孝之の胸の上に置いた。
そのまま両手を孝之の胸の上に重ね、身体ごとのしかかって来た。
ちょうど”天使”の頭が、孝之の顎のすぐ下に収まる形になる。
”天使”は右耳を孝之の胸に押し当てて、ゆっくりと息を吸った。
鼓動が早まっていることに気づかれるかもしれない。
表情を読み取られないよう、視線を逸らせようとした瞬間、
豪快なくしゃみが出てしまった。
くそ、なんでまた。
孝之の胸に収まる”天使”は、声を出して笑っている。
「花粉か何か分からないが、ここに来ると出るんだ」
「からだが、ゆれた」
そう言うと、”天使”は顔を上げて、孝之の顔をじっと見つめた。
視線を落とすと、すぐ近くに”天使”の顔がある。
こんなに近くで見ているのに、
どういうわけか天使の表情が時折ぼやけて見えることがあった。
孝之は何度か瞬きを繰り返し、天使の輪郭を捉えようとした。
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