16 / 87

第16話

「タカユキ…」   「…何でこういう時、都合良く体が動かないんだろうな。」 昨日と同じように”天使”に覗きこまれるような形で その夢は始まった。 気のせいか、昨日よりも”天使”の表情が はっきりした縁取りで見て取れる。 目的を持つと、見えないものも見えてくるようになるのか。 今日の”天使”は何故だか浮かない顔をしていた。 こちらを案じているのか、 それとも何かに悲しんでいるのか。 いずれにしろこんな表情を見るのは初めてだ。 「何か、あっ……!」 何かあったのか聞くより先に、例のくしゃみが吹き出した。 くそ、ムードがブチ壊しじゃねぇか。 ムード。 そんなものをいつの間にか大事にしてたのか。 たかが夢なのに、気遣うことが多すぎる。 ”天使”は弱々しい笑顔を見せた。 それも、やはりいつものような明るさはなかった。 何かを暗示しているようで、少し不安になった。 「何か、あったのか」 「…タカユキ」 「ここにいる」 「タカユキ…」 昨日と同じように”天使”がゆっくりと近づいてきた。 孝之の胸の上に両手を乗せた後身体を合わせるのかと思ったが、そうではないらしい。 そのまま上半身を屈めて、顔を孝之の顔に近づけた。 互いの鼻先を掠める程の距離感に、 孝之が身体を強張らせる。

ともだちにシェアしよう!