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第16話

「タカユキ…」   「…何でこういう時、都合良く体が動かないんだろうな。」 昨日と同じように”天使”に覗きこまれるような形で その夢は始まった。 気のせいか、昨日よりも”天使”の表情が はっきりした縁取りで見て取れる。 目的を持つと、見えないものも見えてくるようになるのか。 今日の”天使”は何故だか浮かない顔をしていた。 こちらを案じているのか、 それとも何かに悲しんでいるのか。 いずれにしろこんな表情を見るのは初めてだ。 「何か、あっ……!」 何かあったのか聞くより先に、例のくしゃみが吹き出した。 くそ、ムードがブチ壊しじゃねぇか。 ムード。 そんなものをいつの間にか大事にしてたのか。 たかが夢なのに、気遣うことが多すぎる。 ”天使”は弱々しい笑顔を見せた。 それも、やはりいつものような明るさはなかった。 何かを暗示しているようで、少し不安になった。 「何か、あったのか」 「…タカユキ」 「ここにいる」 「タカユキ…」 昨日と同じように”天使”がゆっくりと近づいてきた。 孝之の胸の上に両手を乗せた後身体を合わせるのかと思ったが、そうではないらしい。 そのまま上半身を屈めて、顔を孝之の顔に近づけた。 互いの鼻先を掠める程の距離感に、 孝之が身体を強張らせる。

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