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第19話

さっきまで絡み合っていた舌先が、 透明な糸を伝わせながら離されていく。 ひどく、扇情的な光景だった。 「タカユキ…すき」 「”天使”…。お前は誰なんだ。名前を、教えて欲しい」 「タカユキ…すき。だいすき」 孝之の問いに答えることなく、”天使”は再び赤く滑った舌を絡ませてきた。 さっきよりも激しく、孝之を煽るように、生々しい音を立ててくる。 「タカ…ユキ…す…き……っ…ん……タカ…ユキ…」 「……っ…クソっ…」 何で俺のことを好きなんて言うんだ。 俺の妄想なのか。 だったらせめて名前を教えて欲しい。 何だっていい。 夢に出てきた意味を、教えて欲しい。 途端に、身体の強張りが解き放たれた。 上半身を起こし、右手で”天使”の後頭部に手を回した瞬間。 「…嘘だろ」 吹き出した大量の汗で白いTシャツを湿らせながら、 まだ薄暗い部屋の天井を見上げた。 「信じられない」 携帯の画面を覗くと、まだ夜中の3時半だった。 汗で張り付いた黒い前髪を乱暴にかき上げ、ゆっくりと身体を起こす。 この違和感を、夢のものとして片づけるには生々しすぎる。 何かの暗示だったのか、ただの妄想だったのか、 ひとまずそれは端に置いておこう。 その前に受け入れなければならないことが、目の前にある。 履いていたグレーのスウェットパンツを恐る恐る持ち上げ、中を覗く。 「信じられない」 頭の中に、3つの言葉が吹き出しのように浮かんだ。 夢で 天使に 欲情

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