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第21話

「…全然止まないじゃねぇか」 雨の日の残業ほど、気分が落ち込むものはない。 日付が変わるぎりぎりの時間までかかった仕事を片付け、 ホームの階段に一番近い、最終電車の最後列の車両に飛び乗った。 週の半ばの終電は思ったよりも乗客が少なく、悪酔いした者もいない。 孝之は車両の一番端の扉の前に立ち、窓の外を眺めた。 目の前を通り過ぎるビル群を、横殴りの雨が滲ませている。 いつになったら、止むんだろう。 背中に感じる汗と湿気が身体にまとわりついて、気分が悪い。 一刻も早く、家に帰りたかった。 そんなことを考えていると、急に辺りがしんと静まり返ったような気がした。 見ている景色は同じなのに、音だけが距離をもって、遠くの方に聞こえる。 何だ。耳鳴りか。 ゆっくりと顔を上げると、座席を挟んでもう一つ先の扉の前に、 男が立っているのが見えた。 白いワイシャツを着た、細身のサラリーマン風の男。 湿気から逃れるためか、脱いだジャケットを片手に持ち、 シャツの袖口を乱暴にまくり上げている。 焦げ茶色の髪は弱々しくうねり、 前髪の毛先から滴がぽたりぽたりと垂れ落ちている。 傘を持っていないのか。 あんな恰好じゃ、風邪を引くだろうに。

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