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第22話

鞄の中に入っている折り畳み傘を出そうと鞄の中に手を入れた瞬間、 遠くから野性的なくしゃみが聞こえてきた。 言わんこっちゃない。 孝之が呆れたような表情で顔を上げると、 男は濡れていた前髪を腕で豪快に擦り上げた。 横顔が、露わになる。 孝之は、ふと動きを止めた。 何だ。 あの横顔、どこかで見たことがある。 知り合いか。 誰だろう。 まもなく、停車する駅のアナウンスが流れた。 それも遠くの方で小さくこだましていて、はっきりとは聞き取れない。 代わりに鼓動が小刻みに身体を打ち付けてくる。 何で、こんなに。 息苦しさに、鞄の中を探っていた手を抜き出し、胸元に当てる。 ふと視線を感じて目線を上げると、先ほどの男と目が合った。 孝之の鼓動は、更に音量を増していく。 知っている。 俺はこの男を知っている。 知っているのに、誰だか思い出せない。 どこで会ったのかも覚えてない。 だけど、知っている。 暫く視線を逸らさずにいると、 男はくしゃりと顔を歪めてまた豪快なくしゃみを放った。 鼻の下に拳を当て、軽くこすり上げている。 そんなはずはない。 あれは単なる夢で、自分の妄想なのかもしれないのだから。 同じ情景、同じ人間。 しかも、会ったこともない奴が何度も出てくる夢。 普通じゃない。

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