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第24話

あれは間違いなく”天使”だった。 雰囲気は夢と少し違っていたようだが、 あの顔立ちをはっきりと覚えている。 ホームの椅子に、びしょ濡れのまま座った。 身体が水に浸されていることも、大して気にはならなかった。 ”天使”に、会ってしまった。 夢は妄想ではなかった。 目の前で起きたことを受け止めようと、濡れた前髪を掻きむしる。 ぐっしょりと濡れたスラックスのポケットから、携帯を取り出した。 幸い携帯はポケットの中のハンカチに挟まって濡れていなかった。 雨露ですっかり冷え切った指で、電話マークのボタンを強く押した。 『…もしもし?』 「殿上…大変だ……”天使”を見た」 『えぇ?何、酔ってるの?』 「電車に、乗ってた。声を掛けたら、振り向いた。 あの顔は、”天使”だ。夢に出てきた”天使”だった」 『…何か雨の音が凄いんだけど。今どこ?』 目の前で起きたことを何とか伝えようと必死になるあまり、 終電を過ぎた駅のベンチに座っていたことをすっかり忘れていた。 ホームの端にある下り階段から、 見回りの駅員が上がってきたのが見えた。 孝之は大きく息を吐いて、重い腰を持ち上げた。 「…終電を逃した。泊めてくれ 。橋の横の、駅にいる」

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