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第25話
『この雨だから、お迎えには行かないよ…』
「良い。自分で行くから、風呂だけ沸かしといて。…お前、さっきから泣いてる?」
『ぅ…今映画のクライマックスで、良いところなんだよう』
どうせ下らないB級映画でも観てんだろ。
心の中で吐き捨てて、見回りの駅員が呼ぶ方へと促されるように歩いた。
『帰ったら、今度こそ天使様のおっぱいが大きかったか教えてよ』
殿上は低い声で呟くと、一方的に電話を切った。
てめぇはおっぱいのことしか頭にねぇのかよ。
孝之は、暗くなった携帯の画面に向かって悪態をついた。
ホーム端の階段を降りたころには乗客の姿はなく、
孝之と駅員の二人だけになっていた。
駅のシャッターは半分下され、戸締まりを始めている。
改札を出た目の前の横断歩道を足早に渡った。
その先にある坂を上りきれば、殿上の暮らすマンションがある。
エントランスに入り、手慣れた手つきで暗証番号を入力し、扉を開けた。
もう何度世話になったか分からない馴染みの光景が広がると、
幾らか心の緊張を手放すことが出来た。
エレベーターが5階で止まると、
長い廊下の奥から2番目の扉が殿上の自宅だ。
早く風呂に入りたい。
”すっかり憔悴しきった身体は安らぎを求めて、
扉のドアノブに手を掛ける”、はずだった。
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