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第28話
殿上に借りたネイビーの上下のスウェットは異様に細身で、
身体に張り付く感覚がなんとも窮屈に思えた。
お互い背格好が似通っているとは言え、
足の細さをことさらに強調するこの服の好みは共感出来ない。
「これ、何の映画だ?」
「”名猫 ラッピー”だよ」
「…パロディもんか」
「違うよ!イタリアの巨匠が作った映画だよ。」
ほら、といってDVDのパッケージを見せられたが、
表面に書かれたいかにも安っぽいキャッチフレーズには好感が持てなかった。
ソファの前に置かれた大きなテレビから、
ピアノの優しい音が聴こえてくる。
目をやると、テレビの画面いっぱいに愛らしい子猫の顔が写っている。
その目は潤み、こちらに何かを訴えているようにも見えた。
「可愛いー…。ねぇ。可愛くない?」
「…………」
孝之が賛同してくれないことに、殿上は不満そうだっだ。
子猫はどうやら街のはずれにある公園の樹の下に捨てられているようで、
薄汚れた木の箱の中に入れられたその姿は、
”こういう”映画にはありがちな光景だった。
その子猫を一人の男が持ち上げると、
大きな手で包み込むように自分の胸元に引き寄せた。
『お前は、俺の天使だ…一緒に帰ろう…』
男はそう呟くと、子猫を抱えたまま街の方へと去って行った。
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