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第30話

「…こいつ…またベッド変えたな」 誰に聞こえるでもなく小さな声で呟くと、 その一番端に寝転がり、静かに瞼を閉じた。 疲れた。頭も体も、休まらない。 孝之は、瞬く間に眠りに落ちていった。 * 遠くで、何か音が聞こえる。 繰り返し、繰り返し、同じトーンで。 聞いたことがある音。 猫だ。 猫の鳴き声。 鳴き声は徐々に大きくなっていく。 猫は嫌いだ。 いや、嫌いじゃない。 本当は好きだった。 猫アレルギーのおかげで子どもの頃に飼うのを諦めたんだった。 あの悔しさは、今でも忘れていない。 本当は、猫に触りたいんだ。 けど今はもう、道端を自由に走りまわる野良猫に近寄ることもしなくなった。 近づきたいのに、近づけない。 それはこのところ立て続けに見ている夢の世界と、 どこか似ているような気がした。 猫の声は、次第に遠ざかる。 代わりに、聞き覚えのある少し高い声が頭の上の方から聞こえてきた。

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