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第38話

大きな桜の木から砂利道を 5分ほど歩いたところに、 龍司の住むマンションがあった。 孝之は、部屋の鍵を開ける龍司から少し遠く離れた所に立っていた。 「…何でそんなに遠くにいるんですか」 「…一応、不審者ではないことをアピールしようと思って」 「…初対面の人間の家に上がらせてくれって言うこと自体、十分不審者ですよ」 上げる俺も俺だけど。 そう言いながら、龍司は部屋のドアを開けた。 孝之は大きな身体を少し折り曲げながら ゆっくりと玄関に足を踏み入れた。 リビングまで続く短い廊下の壁には、 小さな猫の絵が何枚か飾られている。 それ以外にも、猫の絵がプリントされたスリッパやタオルが置いてあるのが目に入った。 龍司はよっぽど、猫が好きらしい。 「どうぞ。狭いけど」 「ありがとう」 ご対面は、あっという間に叶ってしまった。 リビングの一番奥、茶色のカーテンのかかった窓際にある、白いゲージ。 ゲージは内側にいる小さな生き物にガタガタと激しく揺らされていた。 「サクラ、ただいま」 ”サクラ”。 小さな、小さな子猫。 白いゲージの中で動き回っている。 「サクラって…言うのか」 「そう。…サクラの木の下に、いただろ」 龍司は鞄を部屋の中央にあるソファに放り出して、そのまま白いゲージへと向かった。

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