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第41話

それから孝之は、 龍司に自分の身に起きたことを話した。 毎晩夢に現れる大きな桜の木のこと。 薄茶色の髪に青色の瞳を持つ”天使”に出会ったこと。 自分のことを知っていると言っていたこと。 ”天使”と呼んでいたことは伝えなかった。 ”天使”に会うときまってくしゃみが出ること。 その”天使”が、龍司の顔をしていたこと。 龍司は少し顔を強張らせ、 俯きながら話を聞いていた。 「…それで、昨日俺に話し掛けたんですか」 「まさか、実在の人物だとは思ってなかったから。驚いて、思わず」 龍司はコップに入っていた麦茶を一気に飲み干した。 再び冷蔵庫を開き、 麦茶のボトルを取り出して机に置いた。 状況を理解できていないのか、 せわしなく瞬きをしている。 胸の中にすっぽり大人しく納まっている サクラを掌で優しく撫でながら、 孝之は鼻で静かに息を吐いた。 「勝手な解釈だけど、俺はサクラが松島さんに拾われたことを伝えに来たんだと思ってる。じゃなきゃあんな毎晩毎晩…」 「ちょっと。ちょっと…頭を整理させて下さい」 孝之の話は遮られ、 龍司はまた麦茶のボトルを手に取ると 少し乱暴にコップに注ぎ入れた。 勢いをつけすぎたせいか、 コップから麦茶が机に跳ね飛んだ。 毎晩毎晩、会ったこともない、 しかも男相手に欲情していた。 あんな脳裏に焼き付くようなキスをして、 好きだとも言われた。 ばかげた話だが、事実だから仕方がない。 仕方がないし、それを目の前の男に言えるはずもない。 ただ自分の欲望を夢に織り交ぜただけなのしれない。 そこまでは、今のこの状況下でも解明することが出来なかった。 「混乱させて、すいません。とにかく今日はサクラに会わせてもらえたし、謝りたくてここに来たから。それが叶っただけでも良かった。ありがとう」 「いえ…」 孝之は胸に抱いていたサクラを持ち上げ、 青色の瞳をまっすぐに見つめた。

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