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第43話
「もう…男に興味を持っているとすれば…かなり複雑」
「メスなんですか」
「メス、です」
夢の中の天使の見た目があんな風だったのは、そういうわけだったのかもしれない。
孝之はサクラを自分の口元から離すも、
サクラは孝之の指にしがみついてじゃれている。
「夢の中のサクラもこんな風だったな。こんな風に顔を近づけてきて。髪が長かったから女性だと思ってたけど、途中から男だと気づいて。でもやっぱり、メスだったんだな」
「…そう、ですか」
「名前を教えて欲しいとか、どこにいるんだとか、色々聞いたけど何も分からなくて。だから、ただの妄想だと思ってたんです」
龍司は額に滲む汗を拭い席を立つと、
キッチンに向かい、やかんに火をつけた。
「コーヒー…飲みますか。あ、いや…暑い…か」
「頂きます。ありがとう」
孝之も顎に溜まった汗の粒を手の甲で拭った。
サクラの体温が高いせいもあってか、
どうにも汗が止まらない。
サクラを手放すと、一目散に龍司のいるキッチンに走り去っていった。
夢の中の相手が女だと分かっただけでも、
いくらか安心した。
唇を舐められた時、
サクラは何かを知っているんじゃないかと思ってしまった。
たかが猫のじゃれ合いにさえ、
夢の意味を求めてしまう。
起こり得ないと思っていたこの状況に、
思考が完全におかしくなっている。
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