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第44話
龍司は入れたてのコーヒーのマグカップを両手に持ち、リビングに戻ってきた。
足元で、サクラがぐるぐると走り回っている。
「どうぞ」
「ありがとう」
龍司はマグカップをテーブルに置くと、
足元でじゃれるサクラを抱えて床に座った。
サクラはじっとしていられないのか、
龍司の腕に巻きつき、指にかぶりついている。
「なついてるんですね」
「やんちゃで、困ってます。
俺以外の人に会わせたことがなかったから、興奮してるのかも。」
猫好きの良い飼い主に引き取られて良かった。
拾ってやれなかった罪悪感を捨てきることは出来ないが、
龍司に会ったことで、
その緊張感をいくらか手放すことが出来た。
龍司は左手にサクラを抱え、
右手で淹れ立てのホットコーヒーを持ち上げた。
サクラは龍司が口を付けようとしているものに興味を持ったのか、
今度はマグカップに近づこうとする。
「だめだめ、熱いから」
サクラに話し掛ける龍司は
まるで子どもを諭す親のようで、
見ていてほほえましかった。
龍司がマグカップに口を付けると、
反動で勢いよく背中を反らした。
「あつっ」
「大丈夫ですか」
「猫舌で…あっつ…」
猫舌なのに、そんな湯気の立ったものをすぐに飲んだら熱いだろうに。
孝之はテーブルに置いてあった麦茶のボトルを手に取り、龍司のコップに注いだ。
龍司はすいません、と軽く頭を下げながら
少し顔をしかめてそろりと舌を出した。
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