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第45話

何で、こんな時に思い出してしまったんだろう。 夢の中で会った”天使”と、 ”天使”が覗かせた赤い舌を。 "タカユキ、スキ" 何で、こんな時に。 「…すいません。用事が入っていたのを思い出したので、帰ります」 「え?あ、そう…ですか」 孝之はコーヒーに口を付けないまま、 勢いよく立ち上がり、玄関の方へ向かった。 龍司は少し驚いた様子で孝之を見上げると、 抱いていたサクラが手から飛び出して 孝之の足に飛びつこうとするのを 慌てて引き留めた。 これ以上、ここにはいられない。 何か変な事を口走ってしまいそうで、 恐ろしい。 孝之は平常心を保つ自信をすっかりなくしていた。 「今日はありがとうございました。その、初対面なのに、家にまで上がらせてもらって」 「いえ…」 玄関のドアノブを持つ手が汗ばんでいた。 これでもう、”天使”とサクラに会うのは最後かもしれない。 どちらにも奇跡的に出会えた。 でも、奇跡だけで終わらせるには、情が移りすぎていた。 「…もし嫌じゃなければ、またサクラに会わせてもらえないですか」 「え…」 「その…成長が…見たくて」 低く喉を鳴らすような声で話し掛けてくる孝之のこめかみに、一筋の汗が伝う。 龍司は胸に抱いていたサクラを抱く手に力を入れた。 「…また、会いに来てやってください」 「ありがとう。じゃあ、また」 玄関の扉は音を立ててゆっくりと閉ざされた。

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