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第52話

社員食堂。 「まっちゃん、ひどいクマ。寝不足?」 「あぁ…うん。最近あんまり眠れてなくて」 松島の職場の同僚である山波は、 魚の煮付定食を平らげ、楊枝を加えた。 部署は違うが、二人とも内勤のためよくこうして昼食を共にする。 山波は箸の進まない龍司を心配するように龍司の顔を覗き込んだ。 「真美ちゃん問題?」 「真美の事は…もう良いよ。寝不足とは関係ない」 「ふーん。じゃあなんで眠れないの」 「…毎晩変な夢を見るんだ」 真美は龍司の元恋人だ。 元々は同じ部署にいたことがきっかけで付き合うようになったが、 真美は龍司の上司と不倫をしていた。 そのことに気が付かず結局2年間付き合った後、 別れを告げられ、真美は上司と結婚した。 所謂略奪婚だ。 この3月で、真美は仕事を辞めた。 龍司は山波に1ヶ月ほど前から見始めた夢について話した。 もちろん、身体に触れられたことは話さなかった。 自分の周りに夢の中の男と同じような特徴を持った人間はいないこと。 自分を探しているようなことを告げられること。 それが、毎晩繰り返されることを話した。 「それさ、その男に会うまで夢に出続けるとか、そういうやつ?」 「だって、知らないやつなんだ。それに顔が見えないから、探しようがないよ」 「うーん、何かの暗示?ここ1ヶ月で何かした?誰か新しい人に会ったとか」 「会ってない」 「それか、まっちゃんが会いたいと思ってる人。誰かいない?」 会いたいと思っている人。 夢の中の男は、 何度も「会いたい」と龍司に告げてくる。 謝りながら、何度も何度も同じことを繰り返すのだ。 ただの夢なら良い。 でも毎晩同じ夢を見るというのなら、 何かの暗示を疑っても良いのかもしれない。 「…会いたい人。…いない」 龍司はトレーの上に乗った漬物の小鉢に箸を向けた。

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