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第53話

「…会いたい人、か」 家に着いた龍司は真っ先にサクラのいる白いゲージに近づいた。 サクラは玄関の扉の音を聞き付けると、小さな声で鳴きながらゲージの中で飛び跳ねていた。 「お前を捨てたやつに会いたいな。 なんてことしたんだって、言ってやりたいよ」 そうサクラに話しかけるように呟きながら、 サクラの小さな身体を持ち上げた。 サクラは龍司の指にかじりついていた。 サクラを拾ったのは、今から一年前のことだ。 ちょうど今ぐらいの時期だったか、 家の近くの河沿いにある大きな桜の木の下で 木箱に入れられたサクラに出会った。 真新しい白いタオルをかけられていた辺り、 捨てられてそう時間は経っていないようだった。 放っておくことはできなかった。 たまたまペットの飼えるマンションに住んでいたこともあって、 龍司は白いタオルにサクラを包み込んで 家に連れ帰った。 ちょうど真美から別れ話を切り出された日の夜だった。

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