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第59話

「サクラ……お前なの?お前が、あいつを連れてきたの…?」 サクラは鼻をすんすんと鳴らし、 龍司の掌の中で不思議そうにこちらの様子を伺っていた。 涼しくしたはずの部屋が、 むせ返るほど蒸し暑く感じる。 孝之と話したことはほとんど思い出せないのに、 夢の中で男に言われたことが、 次々と蘇って来る。 「ぅゎ…ぅわ…うわ!!」 龍司の大きな声に驚いたのか、 サクラは龍司の掌から飛び降りていった。 『……おまえがすきだ………………』 「勘弁して……」 頭を抱えてその場にしゃがみ込み、 消え入りそうな声で呟く。 誰に聞かせるでもなく、声は部屋を通り抜ける窓の風に乗って消えていった。 ー殿上の家ー 「ついに”天使”ちゃんにご対面しちゃったの」 「した。ついでに、夢の中に出て来た男の正体も分かった」 殿上との約束の通り、孝之は殿上の好きなショートケーキを買って家に向かった。 孝之は龍司と会った時のことを殿上に話した。 殿上はケーキの先端をフォークで突きながら、 孝之の話に耳を傾けている。 「じゃあ夢の中の”天使”ちゃんは、猫だったってこと?名猫ラッピーだったってこと?」 「…ラッピーじゃねえ。まあ、とにかく一年前桜の木の下で見た猫が、拾い主の松島さんの顔をして夢に出てきてたってことだったみたいだ。嘘みたいな…ホントの話だよ」 「じゃあそのサクラちゃん…松島さんが夢の中で孝之にチューしたりなんだりしたのはなんだったわけ。それ聞いた?」 「バカ、そんなこと聞けるわけないだろ。初対面だぞ。余計怪しまれるわ」 孝之が、龍司に一番聞きたいのは”その”ことだった。 同時に、龍司に一番聞けないことでもあった。 毎晩のようにあんなことがなければ、 自分の妄想だったと自分に言い聞かせることが出来たのかもしれない。

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