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第60話

その日は深夜近くまで殿上の家で過ごし、帰宅した。 龍司に出会ってから、孝之も毎晩のように見ていたあの夢を見なくなった。 真夜中に起きることもなくなり気持ちが少しばかり安らいだものの、”天使”の顔はまだ 孝之の脳裏に焼き付いたままだった。 『……”タカユキ”……』 「……夢と同じ声なんだもんな」 孝之は寝室のベッドの上で仰向けになり、小さく呟いた。 また、サクラに会いたいと思った。 成長が見たいし、龍司と出会うきっかけを作ってくれた恩人、恩猫でもある。 だけどそれ以上に、龍司にまた会いたいと思ってしまう。 会ったところで、自分の夢の中での体験をどう話したら良いのか。 どういった形で、この想いを伝えたら良いのか。 「…想いってなんだ」 孝之は目を見開いて、勢いよく起き上がる。 「想いってなんだよ…想いって」 シャワーを浴びたばかりの身体は、既にじっとりと汗ばんでいた。

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