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第63話
『今から、そっち遊びに行ってもいい?』
金曜の夜。
孝之から一通のメールが届いた。
孝之から連絡が来るのはいつも休みの日の前日と決まっていたが、
その日は何故か急に当日に連絡を入れてきたのだ。
「…今日に限って何で。しかも、こんな時間じゃん」
時計は既に午後11時を回っていた。
龍司は畳み掛けていた洗濯物をクローゼットにしまい、風呂場に向かった。
バスタブの蛇口をひねって、湯を沸かす。
着ていたパーカの右ポケットに入れていた携帯を取り出し、
孝之へ素早く返事を返した。
『良いよ。飲みの帰り?』
孝之からの返事は来なかった。
龍司は足元で走り回るサクラを両手で持ち上げ、リビングのソファに座った。
テレビをつけても、大して面白いものもやっていない。
膝の上でじゃれつくサクラの腹を指先でくすぐりながら、窓の外を見やった。
カーテンから薄く光が漏れ入る。
間もなく満月を迎えようとしている夜空は、
いつもより部屋を明るく照らしていた。
「…サクラ。もうすぐお前の好きな孝之兄ちゃんが来るぞ」
聞こえているのかいないのか、
サクラは気持ちよさそうに龍司の膝に身体を預けていた。
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