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第64話
程なくして、インターホンが鳴った。
サクラを胸に抱きながら玄関口に向かうと、
どさりと鈍い音がする。
不審に思った龍司は扉をゆっくりと開けた。
「孝之…」
扉の向こうには、全身ずぶ濡れになった孝之がうつ伏せになって倒れていた。
強い雨が降っていたことに、
全く気がつかなかった。
この男は、傘を持ってなかったのか。
龍司はサクラを家の奥にあるゲージに入れ、
再び玄関に戻った。
濡れて重くなった孝之の鞄を部屋に入れ、
孝之の肩をゆする。
顔を近づけると、冷たくなった首筋からアルコールの匂いが立ち込めた。
龍司は孝之の脇の下に自分の腕を入れ、
引きずるようにして孝之を玄関口まで
運び込んだ。
身長が180cm以上もあるようなこの体格の男を担ぐことは、さすがに出来そうになかった。
鼻で大きく息をしているのが聞こえる。
眠ってしまっているだけのようだ。
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