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第66話
鼻に突き抜ける酒の匂い。
雨なのか汗なのか分からないような蒸した肌の感覚が、顔に張り付いてくる。
龍司は口を離そうと顔を横に背けようとしたが、孝之の大きな掌で顔を押さえつけられてしまった。
「孝之………何で……」
これは現実なんだろうか。
重ねられた孝之の唇が龍司の吐息ごと飲み込もうと大きく開かれる。
離れる隙はいくらでもあるのに、
なぜか様子を伺ってしまう。
冷たく濡れた唇から忍び入る熱い舌に気づいて、龍司は少し顎を引いた。
孝之はほとんど目の開かないような顔で、
龍司にのしかかってくる。
その内龍司の顔を掴んでいた掌は龍司の腹元に滑り落ち、着ている
トレーナーをまくり上げようとしてきた。
夢に出てきた、あの男と同じように。
「……誰と間違えてんだよ。バカ。バカユキ」
龍司が孝之の手を押しのけると、
孝之はバランスを崩して思いきり龍司の胸に倒れこんできた。
その重さとあまりの衝撃に、
龍司は小さく呻き声を上げる。
いつの間にか、孝之は浅い寝息を立てていた。
明日になれば何も覚えていないんだろう。
夢とも現実とも分からないようなこの時間を忘れてしまっているんだろう。
龍司は寝ている孝之の頬を軽くつねった。
「………りゅ……じ………」
つねられた孝之の頬は、少しだけ赤らんでいた。
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