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第91話

孝之は、慌てて部屋の明かりを弱めた。 龍司はその変化にも反応せず、 目を閉じたまま微動だにしなかった。 ソファの近くに歩み寄り、 屈んで顔を近づけてみる。 聞こえてくる、小さな寝息。 身体を丸めて眠りに落ちるその姿は、 まるでサクラのようだった。 龍司の頬に触れた。 空気に晒された頬は少し冷えて、 冷たくなっていた。 眉をひそめたのを見て、 すぐに手を引っ込める。 また寝息を立て始めたのを聞いて、 今度は指の背で唇に触れた。 「また、夢を見たよ…」 小さな声で呟きながら、 龍司の唇を、少しだけ押してみた。 夢の中で味わった弾力を、指の背で味わった。 胸がじわりと熱くなるのを感じる。 「おしえてって言われたんだ。…お前に」 「……た…ゆき…」 孝之は目を見開き、素早く手を引っ込めた。 起きたのか。 ソファから少し離れて、龍司の様子を伺った。 「…孝……之……」 「龍…司……?」 龍司は仰向けになって、眉をひそめた。 苦しそうな顔つきで、天を仰ぐ。 目を閉じたままでいるのを見ると、 どうやら”夢”を見ているらしい。 左手を空に晒し、何かを掴もうとする仕草をしている。 孝之は再び寝ている龍司の傍に身を寄せた。 胸で浅い息を繰り返す龍司の頬に手を添えると、 薄く開かれた唇から赤い舌が覗く。 孝之は吸い込まれるようにその口に舌を滑り込ませた。

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