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第100話
「神様。仏様。サクラ様。龍司様」
その夜、孝之は自室のベッドの上で天に祈った。
正座をして胸の前で両手を合わせ、目を瞑る。
「…伝えたいことがあるのであの夢を見せてください」
見ようと思って見ていた夢ではない。
そんなにうまくいくんだろうか。
疑いの心を持ちながら一つ、大きな深呼吸をした。
賭けるしかない。
ベッドの上で仰向けになると、
程なくして瞼の力みがするすると解けていった。
*
閉じられた瞳は明るさを受けて、
少しずつ開かれていく。
いつ眠りについたのか、
気がつけば身体は柔らかな緑に身を任せながら
生暖かい風と柔らかな陽の光に包まれていた。
「…自由自在だな」
うっすらと目を開けた孝之は
そう呟きながら、ゆっくりと身体を起こした。
風の音を掻き分けながら、辺りを見回す。
いつもの光景。
いつもの温度。
そこに、天使の姿はなかった。
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