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第105話
これは、夢?
背中に直に伝わる熱を受け止めてもなお、
これが現実だとは思えなかった。
毎晩のように見た、同じ夢。
名前を呼ばれ、後ろから抱き寄せられる。
そして振り返るとそこには、必ず同じ人物が目に入る。
「…夢……」
「夢じゃない」
「…本物…」
「…本物」
”本物の”孝之は、
その場に座り込んだ龍司を支えるようにしゃがむ。
床に額がつくほど折り畳まれた身体を抱き起こそうと腕を伸ばすと、龍司は孝之の首に腕を回し、唇に食らいついた。
反動で、孝之は仰向けに倒れ込んだ。
のしかかった”本物の”天使は、
男の渇いた唇に自身の唇を重ねる。
唇は小刻みに震え、温度を失っていた。
口元に視線を移す。
僅かな隙間から見えた赤い舌。
見逃すことは、できなかった。
「…っ…!」
孝之は龍司の頭を掴み、唇に舌を割り入れた。
急な圧迫感に驚いて身を起こすと、
孝之は両手で顔を覆い、大きなため息を付いたまま天を仰いだ。
「……ごめん」
風が窓を優しく叩き、揺らしている。
玄関先で転がる二人の男はしばらくの間、
夢と現実が徐々に折り重なっていく時間に身を浸した。
「……部屋に…あがろう」
龍司はそう呟くと、
重い腰を上げてゆっくりと奥の部屋へ向かって行った。
孝之は顔を覆っていた両手を腹の上に乗せ、
また深くため息を吐いた。
隠せない。
理性を持って接しようとも、
身体が先に反応する。
押さえつけていた欲が内側から広がり、
その熱さに抗えない。
"天使"。
今はもう、手の届く場所にいる。
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