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第4話 *

 なんで、どうして……! 「んっ、んん……ぅ!」 「はは、この三日で随分敏感になったんじゃない?」 「な、っんで……!」 「ん? そろそろ、車両変える頃合いかなと思って」  一回目は偶然だと思ったから、二日目も同じ時間の同じ電車に乗った。そうしたら、また同じ男に触られたので、今日はいつもと違う車両に乗ったのに……!  どうやら行動を読まれていたらしい。こうなったら明日は――。 「明日はもう一本早い電車に乗ろうと思ってる? 分かりやすくて可愛いね」  図星を突かれて動揺する俺をよそに、その手は確実に俺の性感を高めていく。 「ほら、見てみなよ、自分の顔」  雨で曇って仄暗いせいか、窓ガラスにいつもよりも車内の様子が鮮明に映っていて、まるで鏡のようだった。言いなりになるのが嫌で、逆に顔を背けると、下から片手で顎を掴まれて、無理やり窓の方を向かされる。  とろんと涙目の瞳。上気した頬。涎でも垂らしてしまいそうな半開きの口……。 「こんなに気持ち良さそうにとろとろだよ? 本当は嫌じゃないんでしょ?」 「そんなわけ……!」  スラックス越しに睾丸をツンツンと突かれ、嬌声が漏れそうになり慌てて口を噤む。しかし言いきれなかったせいで、本当は期待しているようなニュアンスにも取れてしまう。 「ほら、乳首だって……こーんなにして。あらら、絆創膏なんて貼っちゃって……」  貼ってきた絆創膏越しに、膨れた乳首が摘ままれる。もう嫌だ……!  すっかり女の子のような性感帯になってしまった。それを指摘されたようで、頬が熱くなる。 「今度ブラジャー買ってきてあげようか。うんと可愛いやつ。きっと似合うよ」 「っあ、ん……! いや、ぁ……いらないっ」 「いらないの? でも、このままじゃ危ないと思うけどな」 「ふ、ぁっ」  親指と中指で乳首を摘ままれたまま、人差し指でカリカリと先端を引っ搔かれて、引けた腰が震える。その腰のぶつかった先に、男の硬くなった部分があった。意図せず腰を押し付けて、ぐりぐりと刺激してしまっていたらしい。  興奮した男がいつものように耳に舌を突っ込んでくる。脳に直接響くような音。これが苦手だった。それなのに、俺の身体は強い興奮を示してしまう。 「好きだよね、これ。股間ビクビクしてんじゃん」 「ちがっ……」 「いっぱいしてあげる」  耳を舐められながら、胸を弄っていた手が片方下にのびてきた。スラックスの上から、尻の穴を長い指でぐいぐいと、下着が埋まってしまいそうな位に押し込まれる。  こんなことをされるのも、もう三回目だ。他の場所と一緒にされると、何故だかムズムズしてきてしまう。不思議に思っていると、スラックスの後ろ側の隙間から手が侵入してきた。 「なっ……!?」 「ほら、大きい声出すと周りにバレちゃうよ? いいの?」 「んんっ」  慌てて口を手で塞ぎ直す。下着の中にまで入り込んできた手は、散々刺激してきたその窄まりに、直接指で触れてきた。ツンツンと軽く突いたかと思えば、くるくるとフチをなぞって、指の第一関節の腹部分全体使ってゆっくりと押し込むような、感触を確かめるような動き。 「本当に処女なんだ」 「なに、いって……」 「たまにかっこいいお友達と話してたでしょ? もしかしたら、もうその子とシたことあるのかなと思ってた。そっか……」  この男、なんで光冴のことを知っているんだ……。この三日間、こいつの前では光冴と一緒にいたことない筈なのに……。  光冴がバスケをしていたのは中学までで、高校に入ってからはバイトがしたいと帰宅部で、朝は同じ時間の電車に乗っている。しかし、光冴に彼女がいない期間しか一緒に登校しないので、最後に一緒に登校したのは一ヶ月くらい前だろう。 「ん? ちょっと前から、もう君に目をつけていたんだ」 「うそだ……」 「本当だよ。俺は君みたいに大人しそうで、真面目っぽい、純朴な子が好きなんだ……」  そう言いながら、一度離れた指が謎の粘度を持って再び触れてきた。ひやっとしたかと思えば、ぬるぬると滑りながら、その液を馴染ませるように穴の皺をなぞっていく。 「あっ!? やっ、なに……?」 「あれ? ローションも初めてなの? オナニーの時使わないんだ」 「ろー、しょん……」  聞いたことはあるけれど、使ったことも、使われたこともなかった。あんなに頑なに男の指を拒んでいた場所が、自分の意思とは関係なく緩んでぬかるみ、つぽつぽと受け入れはじめている。 「うそ……なにっ、なんで……やだぁ……」 「胸にもやってあげようか」  絆創膏の守りは呆気なく剥がされて、音も無く床にハラリと落ちていく。代わりにぬるついた指が触れて、乳首の表面をつるつると滑る。いつもと違う、舐められているような感覚。押さえていた口から、ついに涎が一筋垂れた。 「あはは、すっごいエロい顔してる。ほら、気持ち良くて堪んないって顔。自分で見てみな」 「いや、ぁ……」 「ほら、ちゃんと見ないと。写真バラ撒いちゃうよ?」  後ろから上体を屈めて俺の身体にのし掛かってくる男。耳の後ろを舌が這う。そのまま唾液を塗り付けるように舐めながら、その下がってきた舌が首筋を舐めて吸い上げた。服の中、胸の辺りで蠢く手。背後へと消え、映っていない手はスラックスの中。本来出すべき場所に入ろうと、勝手にぬめりを与えて弄りまわしている。先程は一センチも入っていなかったであろう指が、いつの間にか第二関節くらいの深さまでずっぽりと埋まっていた。 「ほら、ここら辺に、男の子でも女の子みたいに気持ち良くなれるスイッチがあるんだよ」 「いや……やだ、やめて、ぇっ」 「大丈夫だよ。おじさん優しいから。ここだけでイケるように、毎日慣らしてあげる」 「そんなの、しないで……っ」  ぽろぽろと涙が零れてくるのに、身体はどうしようもなく快楽を拾ってしまう。毎日こんなことをされたら、きっと気が狂ってしまう。  コリッ……と、男の指がナカの何処かを引っ搔いた時、ビクリと大きく身体が震えた。 「んやあッ!?」 「あぁ、ここだね。君が気持ち良くなれるスイッチ」  ぎゅうぎゅうとそこが指で押し込まれる度、嘘のように身体が跳ねた。必死に両手で口を押さえているのに、その指の隙間から唾液が零れる。垂れた雫が床に落ちた時に身体がビクリと震えたのは、俺ではなく、男の方だった。 「おじさん、なにしてるの?」 「え……?」 「そいつ、俺の友達」  そんなに大きな声ではなかったはずだ。ざわついた電車内では、聞こえなかった人の方が多かっただろう。  それでも俺の耳は、聞きなれた声をやけに鮮明に拾った。窓ガラスの反射に映っていたのは、痴漢している男の肩を叩く光冴の姿だった。男の手があっさりと俺の身体から離れていく。 「あっ、そ、そうなんだ。いやー、おじさんね、最近涼くんと仲良くなって」 「なに名前で読んでんの……? こっちは証拠もあるんだけど」  そう言って光冴がスマホの画面を男に向けると、男の顔がサーッと青ざめていく。俺はただ呆然とその様子を眺めていた。 「これでもまだ言い逃れする気?」 「いや、ちがうんだ……」 「なんなら動画もありますけど」  二人のやりとりにざわつき始めた車内は、「なに?」「なんか痴漢だって……」と囁き合うような声が聞こえる。 「アンタ、次の駅で一緒に下りてもらうから」

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