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第5話 *

「ごめんな……。学校、遅刻になっちまう」 「なに言ってるの。謝るのは俺の方でしょ。……こんなことに、光冴を巻き込んで」  いつもの降車駅とは違う駅で降りたので、再び二人で電車に乗り込む。  通勤通学ラッシュはとうに過ぎた時間で、ゆったりと席に座ることが出来た。ぴたりと触れ合う光冴の身体の熱に安心してしまう。  しかし同時に、中途半端なままだった身体が再び疼きを思い出しそうで、慌てて少し距離をとった。それなのに、光冴はその開けた距離を何故か埋めてくる。 「……なんで相談してくれなかったの」 「だって、言えるわけないじゃん」 「言ってよ。俺と涼の仲じゃん」  だから言えないのに。 「男が痴漢されてるとか、恥ずかしいし……」 「そんなの俺は気にしないし、それで軽蔑するような奴だって、涼に思われていたことの方が悲しい」 「そんなこと、思ってない……!」 「じゃあ、絶対に次からは相談して。もし自分が動いてなかったらって思うと……いや、既に涼がアイツにされていた事を思うと、怒りで頭おかしくなりそう」  頭を抱えたままワシワシと髪をかき乱した光冴に驚く。 「お、大袈裟だな」 「大袈裟じゃないって!」 「女じゃないんだし、そんな大事にはならないって」 「は?」  光冴の怒ったような低い声に、背筋が震えた。 「なに言ってんの?」 「いや、だって……」 「ううん。もういいや」  前髪をかきあげながら、ぎらついた瞳に睨み上げられた。光冴のこんな顔、初めて見た。保育園の頃からずっと一緒だったのに。 「教えてあげる。俺が止めなかったら、涼がどうなっていたのか」 「は?」  そう言うと、光冴は俺の手を掴んで、まだ高校のある降車駅ではないのに降りてしまった。 「ちょっと、なに……光冴!」 「あ、もしもし? 二年B組の光冴です。さっき駅員さんから連絡ありました? 今学校に向かっていたんですが、涼の体調が悪くなってしまって、今日は登校するの難しそうです。先生、俺と涼が幼馴染なの知ってましたよね? 俺、家まで付き添って、親が帰ってくるまで傍に居たいんですけど……。はい、すみません、よろしくお願いします」 「こ、光冴……?」 「いいから付いて来て」  光冴に手を引かれて、大人しく後ろをついて歩く。俺は初めて降りた駅だったが、光冴はそうではないらしい。迷いなくすいすいと道を選んで歩いていくと、『休憩』とか『一泊』と書かれた看板が沢山出ている場所にでた。  その中の一ヶ所に入ると、部屋の写真付きパネルのような物を押して鍵を受け取って、そのままエレベーターに乗り込んだ。 「ねえ、なにここ……」 「ラブホ」 「はあ!? 俺達高校生だぞ!」 「高校生でもバレないところだから大丈夫だって」 「……」  何故そんなところ知っているのか。聞きそうになって、慌てて口を噤む。俺にそんな権利はないから。……っていうか、そうだよコイツ。 「光冴、彼女は? お前、彼女居るのに、俺とこんなところ入って……! 誰かに見られて、勘違いされたらどうするんだよ!」 「嫉妬してくれてるの?」 「揶揄うな! こういうことじゃなくて……!」 「大丈夫だよ」  エレベーターの扉が開く。おじさんと若そうなお姉さんが、俺達を見て一瞬ぎょっとした顔をしたが、特に声を掛けられることもなく脇を通り過ぎ、俺達はエレベーターから降りて、おじさん達は乗っていった。 「別れたから」 「……は?」 「別れた。彼女と」  なんてことないように重大な発表をしながら、光冴は部屋の鍵を開ける。 「ど、どういうことだよ。なんで……」 「ほら、入って」 「いやいや、だから、なんでって」  ぐいっと強く腕を引かれて、扉の中へと引きずり込まれた。そのまま手首が扉へと押し付けられて、強引に口付けられる。 「んっ、んぅ」  背後でガチャッと鍵の閉まる音。二人きりの部屋に閉じ込められた感覚に、ゾクリと背筋が震えた。 「っん、んン……あ、ぅ」  散々痴漢の男に弄られた身体だったが、そういえば、まだキスはされたことがなかったな。頭の片隅でそんな事を思った瞬間、責めるように乳首が摘まみ上げられた。 「ふぅ、ッん!?」  暗い室内で、更に背を丸めて屈んだ光冴の瞳には、いつものキラキラした光がない。 「ねえ、俺だって嫉妬してるよ。頼むから、俺以外のこと考えないで」  嫉妬……? 光冴が、いったい、誰に……。 「あの日、涼の様子がおかしくて、絶対なにかあったんだって分かったのに、涼、教えてくれないし……」 「ご、ごめん」 「仕方ないから昨日、彼女……元カノに、『今日は一緒に行けない』って言って、涼と同じ車両に後ろから乗ったんだ。そうしたら、なんか男に痴漢されてるし、エロい顔して喘いでて……」  呼吸が苦しくなるくらい、強く強く抱きしめられた。 「なんか、怒りで頭がどうにかなりそうだった。『俺の涼になにしてんだ』って、『汚い手で勝手に触るな』って……。涼も涼で、なんで黙ってされるがままなんだって……」 「ごめん……俺、こわくて……」 「そうだよな……。それでも俺、もし二人の行為が同意の上だったら? って思った瞬間……本当に、なんて言ったら良いんだろう。苦しくて、息が出来なくなって、涙が出てた」 「光冴……」 「好きって、こういうことじゃん、って……。俺、気付いてなかったんだ。告白されるまま、なんとなく付き合って、その子の良い所探して、本当に好きになった気分でいた」  唇が軽く触れて、チュッと可愛らしいリップ音が鳴る。 「ずっと傍にあったんだ。本当に好きって気持ち。でも、当たり前すぎて、見逃してた。昨日、ようやくそれに気が付いたんだ。それで昨日は証拠だけ押さえて、色々考えて、彼女に別れ話してきた。……俺が本当に好きなのは、涼なんだ」  光冴も、俺のことが好き……? 気持ちが追い付かないまま、光冴の顔を両手で掴んで、背伸びをして自分からキスをする。光冴の瞳が嬉しそうに細まって、俺の方まで嬉しくなった。 「涼の事が大切だから、雨の日はずっと涼の傍に居るって決めてたんだ。昔、二人で留守番していて、停電になった時あったろ? あの時の涼が、どうしても頭から離れなくて」 「えっ……」  雨の日には、光冴が必ずやってくる。彼女とのデートも、他の友達との約束も、全部キャンセルして、俺の元にやってくる。  あれは俺の為だったのか……? 「お前は優しいから、言ったらきっと気にするだろうと思ったし、ただの俺の自己満足だったけど……今思えば、雨が降ってるってだけで、彼女よりもお前を優先してる時点で、おかしかったんだよな……」  前髪が分けられ、柔らかいキスが降ってくる。瞼に、鼻筋に、目尻に、頬に――。  待ちきれなくて、自分から唇を触れ合わせた。 「ん……」  薄く口を開いたら、そこに熱くて大きな舌が割り入ってきて、溺れそうになる。 「鼻で息して」 「ふ、ぁ、……んぅっ……」  いつも食べ物を食べる時、光冴の口って大きいなと思っていた。それに対して、「涼は口が小さいから、一口も小さい」と揶揄われる俺。その差は歴然だった。  俺の口が丸ごと覆われるみたいに、かぷかぷと食まれて、成す術もなく、口の中を蹂躙される。どう動くのか予想もつかないそれが、丹念に口の中を舐めていく。余すことなく隅々まで。  大きい光冴に合わせて上を向いていると、二人の混じりあった唾液がどんどん下ってきて、口の中がいっぱいになる。こくこくと必死で飲み込むと、なんだか変な味がして、でも嫌じゃなかった。 「ずるい。俺も飲みたい」  別に、好きで飲んだ訳じゃないのに、そんな拗ねるみたいに言う光冴が可愛くて、勝手に唾液が溢れてくる。全部吸いとるみたいに舌ごと吸われて、それすらも気持ちが良い。  惚けて口の中を預けていると、するりとワイシャツの裾から手が忍び込んできた。両手が胸の突起を見つけて、軽く弾く。 「ひぅ……んっ! あっ、ああ、んゃ……っ!」  たったそれだけの刺激でも、この三日ですっかり性感帯にされた乳首は、イッてしまいそうな程に強い快感を拾った。 「……」 「……こ、光冴?」  急に横抱きにされて、そのままベッドの方へと連れていかれる。 「あ、待って……お風呂、入りたい。俺汚いままだから。結構舐められたりとかもしたし……」 「……」 「光冴?」  だんまりを決め込みはじめた光冴に戸惑って声をかける。 「嫉妬で死にそう」 「え?」 「腹藁が煮えくり返るって、こういうこと言うんだろうな……」 「ちょ、ちょっと」  ベッドの上へと優しく置かれて、そのまま押し倒された。顔の両脇に付かれた光冴の腕。囲い込まれたみたいで落ち着かないが、不思議と恐怖心はない。 「何されたか全部言って。俺が上書きするから」 「なに、言って」 「本当は涼のはじめて、全部俺が良かった。ここ、弄って開発するのも」 「ッあ!」  すっかり赤く熟れているのを咎めるかのようにピンッと弾かれて、思わず嬌声が漏れる。それにムッとした顔をする光冴が、指先で擦り潰すように捏ね始めた。 「これはされた?」 「んんっ、あッ! された、ぁ……ッ」 「ふーん、じゃあ、これは?」  指先でカリカリと引っ掻かれる。 「ンああっ、あ……ゃ、っん……! された、されたから、や、ぁ!」 「……」  ベロリと舐め上げられてから、舌の先端でコロコロと転がすように舐られた。 「! あ、ッあ……!」 「舐められるのは……?」  確認するようにそう言われて、俺は必死に頭を横に振った。 「よかった」 「っあ……ふ、ぁ」  ちゅうちゅうと乳首に吸い付きながら、更にそこを吸い上げたまま突起の先端を舌でチロチロと舐められ、つい腰が浮いて、胸にある光冴の頭を抱えてしまう。  胸から口を離した光冴の顔が近づいてきて、再び合わせられた唇。くちゅくちゅと舌を絡め合わせながら、左胸の突起を指で弄られて、それに感じ入っていたら、いつの間にかスラックスと下着がずり降ろされていた。 「うわ、すげー先走り。本当に気持ちいんだな、胸」 「ん、きもち、ぃ……コウに触られるの、すき」 「その呼び方、久しぶりだな。……なんか、昔のお前に悪戯してるみたいで、こう、罪悪感が……」 「コウ、もっとさわって……」 「あー、もう! わかったって! ……りょーちゃん、まじで可愛いんですけど……なんなの……」 「んぅ」  子供の頃のあだ名で呼び合いながら、子供とはかけ離れた行為をする。  じわじわと実感していく、自分の想いが結ばれたという事実。  いま自分に触れているのは、まぎれもなく、あの頃からずっと憧れだったコウなんだ。  ちゅこちゅこと股間を擦られて、「これもされたの?」と聞かれる。こくこくと頷けば「へぇー」と嫉妬丸出しの声で低く言われて、責め立てる手が早くなった。 「っあ! や、ああッ! も、イク……ッ!」 「いいよ、イって」 「んんッ――!」  ドプッドプッと、電車で寸止めされていたこともあって、かなりドロッとした濃い精液を射精した。 「いっぱい出たね」 「ん……」  息を整えながら、なんとか返事をする。しかし、そうしている間に、光冴は俺の出した精液を後孔に塗りたくり始めた。 「や、なに……」 「こっちも弄られてたじゃん」 「でも、直接されたのは今日だけだったし、ちょっとだけだった、から……」 「ちょっとでもダメ……。アイツが触ったところは全部触る」 「あっ、あ、っ! だめ……ねえ、コウ。んっ、あの人の手、ちょっとコウに似てて、それで気持ちよくなっちゃっただけで、俺……」 「は?」 「っ、あ、ひぅっ…!」  くるくるとフチをなぞるだけだった指が、ぐちゅっと一気に第一関節まで埋まってしまった。 「なにそれ……いや、まあ、俺のこと想ってくれてたってのは、嬉しいけど……でもな……他の男の手が気持ち良かったって報告はちょっと……」 「んっ、……っあ、っ!」 「いただけないかな」  ぐっぷぐっぷと指を馴染ませるように抽出を繰り返される。 「ああ、そうだ。じゃあ、アイツのこと思い出しそうになったら全部俺に変換されるようにしようか」 「は? なに言って……」  再び抱きかかえられて、今度は窓の前へと立たされる。 「こんな感じ?」  背後から続きのように後孔を弄られて、逃げるように窓へと手をついた。 「おいこら、腰突き出すみたいになってる。これじゃあ痴漢に触ってくださいって言ってるようなもんだぞ」 「ちが、……ちがうの」 「そういえば、耳も舐められてたっけ。……痴漢野郎と間接キスは嫌だけど、そのままはもっと嫌だしなぁ……うーん」  少しの間があったのち、後ろから覆いかぶさってきた光冴が、俺の耳に舌を差し込んできた。合間に光冴の吐息のようなものも聞こえてくる。 「っあ、や……! それ、きらいっ……!」 「そう? 嫌いって言ってるけど、後ろは嬉しそうに指締め付けてきてる」 「っ……! だって、コウの声、すき……だから、ぁ……!」 「またそういうこと言って……。痴漢にそういうこと言ってないよね……」 「言ってない……コウ、だけ。俺がすきなのは、コウだけ、だから……っ」 「……あー、ちんこはち切れそう」 「えぅ……?」  後ろ手に、光冴の股間をスラックス越しで撫でてみると、驚くほどに硬くて、確かにはち切れそうという表現がピッタリな程に盛り上がっていた。本当に興奮するの? 光冴が、俺で? 信じられない気持ちで、すりすりとそのまま擦っていると、ムクムクとそこが反応するのが少し楽しくなってくる。 「ねえ、本当にアイツにそういうこと、してないよね? 頼むから心配になることして煽らないで」  壁の両脇に手が付かれて、再び光冴に囲い込まれる。痴漢の時とは全く違う、圧倒的な安心感に、その手に頬を擦り寄せる。 「コウだけだよ……」  顔が見たくて後ろを振り返ったら、当たり前のように優しい唇が与えられて、くすぐったくて、幸せで、気付けば涙が零れていた。 「んっ、ん……」 「ごめん、苦しかった?」 「うん。幸せで……幸せすぎて、苦しくなった」  流れた涙を光冴の唇が吸い上げていく。 「なにそれ」 「……コウも泣いてる」 「りょーちゃんのが移った」  今度は俺が、光冴の涙を舐めとった。 「挿れて、欲しい……コウの、これ」 「でも、まだ狭いって。無理して今日挿れなくても……」 「俺の中、女の子みたいに気持ち良くなれるスイッチがあるんだって」 「は?」 「言われて、ちょっとだけ押された」 「……どこ」 「ここ……ねえ、そこ弄ったら、もしかしたら、挿るようになるかも……」  光冴の手を、もう一度自分の後孔に導く。ちょん、と触れた指先に、ピクリと身体が震える。 「この中の、えっと、指が確か……」 「いい。言わないで……。俺が自分で探すから」 「え?」 「やっぱりアイツ、もっと懲らしめてやればよかった……。痴漢してる写真を、りょーちゃんの顔だけ加工で隠して、職場とか家族にバラ撒いたりとか、SNSで拡散したりとか……」  小声でそう言いながら、スラックスのポケットから小袋に入った何かを取り出して、手にトロリと垂らしている。 「俺が、アイツよりもトロトロに気持ち良くしてあげるから」 「ぅあっ……、っ!」  ぬるついた指が再び差し込まれた。  ローションを万遍なく塗り広げるように、第一関節くらいまでの浅さの指を、穴の中でぐるりと回して、壁をなぞる。つぷつぷと浅い抽出を繰り返しながら、時折そうして壁を解すようにぐるりと掻き回し、くぷくぷと指を折り曲げて感触を確かめながら押し広げた。 「んッ、んっ、んんぅ…っ」  もどかしい。痴漢の男よりも慎重で、穴や腸壁を傷つけないようにと気を付けてくれている動きだ。そうして触れられているうちに、あの時のスイッチを押された感覚を思い出して、ゆらゆらと腰が揺れてしまう。早く、もっと奥まで挿れてと、光冴の指にお尻を押し付けてしまう。 「もっと奥?」 「ぅ、んっ! もっとっ、おく……はやく、奥っ、触って……!」 「ん」  ローションが足されて、ぬぷぷと先程よりも深く指が入ってくる。また中で指がくるりと回って、壁を押し広げるように曲げられた。お腹側でくにっと曲げられた時、バチバチッと瞼の裏で火花が散る。 「んああっ、あッ、あ…!!」 「ここか?」 「やっ、あッああっ、まって、ま……」  びくびくと身体を痙攣させながら、背中がしなる。更に腰が高くなって、お尻を強請るように突き出す姿勢になってしまった。上手く身体が支えられない。光冴が指を二本に増やして、丹念にそこを押し込んで、時折膨らみを指で挟み込むように刺激してきた。 「っあ、ふぁあッ! あ、も、だ、めぇ…イく、イッちゃう……!」  ガクガクと情けなく足が震えて、射精していないのに、身体が絶頂しているのが分かった。 「すごいな、中だけでイけそうなのか?」  俺がイッていることに気が付いていない光冴は、更に指を三本に増やして、俺の気持ち良い所をぐっぐっと押し上げてくる。 「あぅ、あッ! まって、まっ……! だ、めぇっ、イッて、ぅ、いまイッ――!」  ――ビクビクッ  身体は確かにイッているのに、射精していないせいで、光冴がそれに気付いてくれない。止めようにも呂律が回らず、ふわふわした頭で上手く言葉で伝わらない。そうこうしている間にも二度目の絶頂を迎え、それでも光冴は「中ずっとビクビク痙攣してるな。締め付けすげえ」なんて言いながら、尚も中を弄る手を止めてくれない。 「まっへ、ぇっ、あっ……なん、ッも、イぅ――ッんんぅ!」  ビクン、ビクン、と三度目の絶頂に、もはや息も絶え絶えで視界がチカチカと点滅している。 「……あれ? もしかして、もうイッてる?」  そう思うなら、手を止めろ……!  力が入らなくなって足を曲げると、しゃがむ途中で抜けていった光冴の指が、また良いところをひっかけた。 「! っも、やぁッ…あ! ぅ……っ!」  女の子のようにへたり込んだまま、腰がビクビクと震えている。射精といえないほど勢いのない白濁が、トプトプと先端から漏れた。 「そろそろ入りそうかな……」 「あ……」  光冴がベルトを外してスラックスのジッパーを下げると、既に下着からはみ出してしまいそうな程に生地を押し上げて、変色しているそこ。導かれるように自分から下着のゴムに手をかけて、下にズリ下げた。同時に、ぶるりと飛び出してきた熱の塊が頬に当たる。 「あ、やべ、風呂……」 「そんなのいい……」  確かにむわりと濃い雄の匂いがするが、寧ろそれにドキドキと胸が高鳴った。そっと触れて、上下に擦ってみると、握り慣れた自分のモノよりも随分と太くて長く、血管の浮き上がりがボコボコしている。色も自分のものよりも赤黒くて、裏筋やカリなどの凹凸がハッキリしていた。  自然と口に唾液が溢れ、大きく開いていてパクリと咥え……ようとしたのに、口の中にあったのは、何故だか光冴の指だった。 「ふぁんえ」 「おまっ、あっぶねえ……! まあ、それはまた今度お願いするとして……」  口の中の光冴の指が、バラバラに動いたかと思うと、きゅっと舌を摘ままれれる。 「まだいっぱいキスしたいし……。いつかお風呂入った後に」 「んぅ……」 「そんな拗ねた顔すんなって、な?」  俺の口から引き抜いた手で、自分の性器を軽く数回抜いて完全に勃ち上がらせた光冴は、手慣れた様子でゴムの封を切って付けていく。  光冴が、俺の何気ない言葉や反応に痴漢の影を見て嫉妬するように、俺だって、光冴のそういう何気ない慣れに嫉妬してしまうんだ。 「も、っはやく……それ、ほしい……っ」  光冴を早く、自分だけのものにしたい。自分を早く、光冴だけのものにして欲しい。  焦る気持ちでそう口走ったが、はしたないと引かれてしまわないだろうか。  心配する気持ちも確かにあるのに、制御できない身体は勝手に震える足で立ち上がり、自ら片手を窓に付いて、もう片方の手で挿入しやすいように後孔を広げた。 「ここ、はやく、コウのにして……」 「お前なあ……っ!」  大きい身体が覆いかぶさってきて、耳の後ろを吸われた。 「あっ、んん…!」  熱い物がお尻の谷間に挟まっている。それだけで、散々弄られて快楽を覚えた後孔は、くぱっくぱっと開閉を繰り返し、はしたなく挿入を催促していた。 「……っうそ、なんで、こんな……! や、っぁ、……みないで」 「なんで? めっちゃ興奮する……」  光冴の熱い吐息が耳にかかって、直接脳に吹き込まれるみたいに直ぐ近くで声がする。昔から好きだった、光冴の声が……。痴漢の時は、あんなに嫌だったのに。もっと近くで感じたくて自分から擦り寄ると、チュッと可愛らしいリップ音のあとに、耳の輪郭をなぞる様に舌が這って、耳朶を食まれる。 「かわいい……」  ゾクゾクとしたものが背筋を駆け上ってゆく。どうしよう、嬉しい。いつも羨ましいと思っていた。光冴に可愛いと言って貰える女の子が。当たり前のように光冴の身体に触れられる女の子が。じゅぷっと舌が耳に入ってきて、あんなに苦手だった筈なのに、どうしようもなく気持ち良いと、素直に感じてしまう。 「あっ、んッ」  光冴の腰が動いて、熱い物がずりずりと穴の上を滑っていく。  ふりふりと腰が揺れてしまって、笑った吐息が鼓膜を揺らして、脳が痺れる。収縮している後孔に数ミリ程つぷつぷと予告のように緩く抽出したかと思うと、ようやく狙いを定めたらしい先端がピタリと宛がわれて、ずっと挿入を待ち望んでいたそこに、グッと圧をかけてきた。 「ふぁ、あっ……! んんんッ、あ、ぅう…っ」  ぬぷぷぷと、指とは比べ物にならない質量のものが、穴を押し広げながら入ってくる。 「っああ、ぅ、あ、んあっ…!」  くぷんとカリ首を飲み込んだ辺りで、耳に入っていた舌が出ていった。耳元で余裕の無さそうな吐息と堪えるような微かな声が聞こえる。光冴も、あまり余裕がないらしい。そんな様子にキュンとしていると、「頼むから、いま中締めないで……!」と懇願されてしまった。無意識に後ろを締めてしまっていたらしい。 「んぅ……」  自分もかなり余裕はないが、それでも光冴がどんな表情をしているのか覗き込もうとしたら、深く口付けられた。 「っん! んんーッ!」  そのままズププと腰が奥へと進められ、その感覚に混乱して、キスをしている余裕がなくなってしまう。それなのに、光冴は好き勝手に口の中を舐めまわして、舌を絡ませ翻弄してくる。 「んぁ……ぁ、ぅっ! ……ふ、ぁ……っん」  少しずつ押し広げながら、中の感覚を楽しむように、入っては戻って、入っては戻ってを繰り返してきた。薄い酸素でボーッとした頭。熱い何かでお腹の中を、ぐちゅぐちゅと掻き回されると、勝手に嬌声が漏れてしまう。 「あ、あっ、んんっ……!」 「気持ちい?」 「っん、きもち、い…っ!?」  突然、痺れるような快感。足の先から頭のテッペンまでを突き抜ける刺激だった。 「ッあ!? ん、やっ、あ、……なにっ!?」 「さっき気持ち良かったところ」  スイッチだ。痴漢のおじさんが言っていた場所。俺が何度もイッているのに光冴が気付かず、散々無茶苦茶にされた場所。……ただでさえ気持ち良いのに、その時の記憶が身体を巡って、更に気持ち良くなってしまう。 「ぃや、っああ……っ! そこっ、いやぁ……!」 「えっ、いや? じゃあ、やめる……?」  いじわるそうに笑って、腰の動きを止めた光冴。急に止んだ快楽に、身体はむずむずと疼いて動揺してしまう。涙の溜まった瞳で睨んでみても、全く効果は無かった。寧ろ、嬉しそうに股間がピクリと反応している。 「うそ……っ、やめないで、ぇ……っ!」  自分で必死に腰を前後に動かして、ぬちゅ…ぱちゅ…と良い所に当てようとしてみたが、うまくいかない。 「おねが、っ、これ、ぇ……もっと、ほしい……っ」 「えろすぎだろ……」  興奮したようにこめかみに口付けられて、再び光冴の腰が動き始めた。 「あっ、あ…っ! それ、ぇ」 「これ?」 「それ、すきぃ……」 「っ……!」 「ひぁっ!?」  急に強く突き上げられて、トロトロと射精してしまう。なんで、いきなりこんな激しく……!? 「あんま余裕ないから、煽らないでよ」 「あおって、ない……っ!」 「天然でそれか……」 「んんん、っ!? あっ、あ……や、ぁっ!」  ずんずんと気持ちい所を突き上げたかと思えば、今度はもっと奥までズルルと挿ってくる。 「あっ、うそ……っ!? はいらな、そんな、おく……っ!」 「流石に奥の方キツキツだわ……気抜いたら直ぐ出そう……」  慣らすように、馴染ませるようにゆっくりと、緩く優しい抽出が繰り返される。  ぬぷぷぷと壁を押し広げて熱い塊が挿ってくる時も、蠢く肉壁をカリがずるずると引っ搔きながら出ていく時も、どっちも気持ち良い。  更に、カリが肉壁のスイッチに触れる時も、穴を引っ掛けて出ていく時も、奥の壁をトントンされる時も気持ちが良くて、だんだん訳が分からなくなってきてしまう。  気持ちいい。光冴が触れていく、全部が。

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