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06. 遠くて近い記憶

――優しい、優しい恋をした。 『直、誕生日おめでとう』  花束を手に優しく微笑む彼。  流れるように跪いた彼は俺を見上げてポケットから小さな正方形の箱を取り出した。 『直、ずっと君だけを愛してる。これから先も俺と一緒にいてくれませんか?』  少し恥じらったような、けれど全てを決意したような揺るぎのない真剣な表情だった。着飾ったスーツ姿でもなくて、夜景が綺麗な洒落たレストランでもない。いつもの部屋着姿でそんな事を言う彼がなんだか不恰好で、でもたまらなく愛おしくて思い切り抱き着いた。 『俺はきっと君以上に誰かを愛する事はないよ。直に出会えて良かった』  俺はαだから悠人さんを好きになったんじゃなくて、悠人さんだから好きになったんだ。 『直と居られるならどうなってもいいんだ。全部俺がどうにかするから』  俺の為に一人で全てを背負って、一人で苦しんでいる事を知っている。  ……でも俺は彼の家族の事をあまり知らない。知ろうとしたが彼はそれをよく思っていないようだった。きっと家族が俺達に何らかの害を加えると考えての事だろう。  でも、それでも俺は悠人さんと二人ならば何にだって耐えられるのに。  本当は寂しかった。こんなに近くに居るのに彼が遠い気がして。  でも、彼といられるならもうどうだって良かった。…いや、今だから思う事だろう。まさかあんな形で彼を失うとは思っていなかったからだ。一生残ると思っていた彼が残した傷痕は、もう綺麗に無くなってしまった。 『直…愛してる』  切羽詰まったような息遣い。低く甘い囁きと吐息混じりに俺の名前を呼ぶ声。色々な感情でぐちゃぐちゃになった思考で、舌足らずに好きだと何度も言った。  俺の記憶に絡み付いて一生消えない“痛み”を残して……

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